専門家に聞いてみよう!第一回。
今回は、長年に渡って臨床心理士として摂食障害に関わってきた中村このゆさんに、社会文化的背景という観点からお話をお聞きしました。ハキハキとお話される中村さんは、頼もしさの中に穏やかなオーラを秘め、活き活きとした表情がとても印象的でした。

中村さんは、臨床で心理士として摂食障害の研究・論文・著書を数多く出され、日本摂食障害学会の評議員という顔もお持ちです。現在は、追手門学院大学心理学部教授として活躍される中、東大阪市子育て支援事業「であいの広場 若江岩田 きらりっこ」顧問なども受け持たれ、今年5月から、未来蝶ネットを運営するあかりプロジェクトの顧問(あかりコーディネーター)もお引きうけいただくことになりました。

(2010/6/23 取材・文 あかりリカバリーフレンド 桂けい子)

 

一番大きいのは社会文化要因だと思っています


-先生の歴史をたどっていくと、摂食障害との関りはとても密であり、出版された本も研究も、摂食障害と関係深いものです。そもそも、摂食障害と関わるようになったきっかけ・出会いを教えてください。

私は1970年代から心理臨床と関ってきたんです。
摂食障害に出会ったのは、昭和52年(1977年)、現在の国立病院機構京都医療センター(旧 国立京都病院)の精神科の心理療法士として働き始めたっていうのが発端なんですね。

そこに内分泌専門である東(あずま)淑江先生がホルモンの研究をされていて、摂食障害(当時、拒食症を診るのが主だった)が甲状腺機能低下する「橋本氏病」と関係があるんじゃないかって研究をしておられたのね。先生は医療行為をして、私たちはカウンセリングを受け持つという、まあ、チーム医療みたいなことをしていたんですね。

…で、摂食障害の患者数が増えてきた1970年後半に、厚生省(現 厚生労働省)が摂食障害の研究班を立ち上げたのね。当時、心身医療のご専門だった (故)石川中(なか)先生が班長先生になられて、日本各地で拒食症の治療に当たっている先生方を研究者(班員)として集められて、東先生が班員におなりの時に「研究協力者になって一緒に研究しない?」って言われて。それから、摂食障害の治療や研究に関るようになったの。

予算確保のために班研究で毎年必ずレポートも出さなければいけませんし、お医者さんとは違った角度から臨床心理学者として貢献できるような治療と研究というのが、その東先生を中心とする班研究の中でだんだん培われていったというのが、きっかけです。

-そのようなきっかけで今まで長い期間、摂食障害と関ってきたのですが、先生の目には、摂食障害という病気・そして、摂食障害の方々はどのように写っているのか…というところをお聞きしてもよろしいでしょうか。

とてもビッグな質問で、お答えが長くなると思うんですね。
1970年当時ですね、私は臨床家だったので「どうやって治すか」ということが一番関心事なわけですね。
当時はまだまだ、摂食障害や拒食症に関しての心理療法とか精神療法に関して、充分に治療法がストックされていない時代だったんですね。

手探り状態でして、私たち当時読んでいた本は、アメリカ人の精神分析科医のヒルデ・ブルックが書かれた本「ゴールデン ゲイジ(金色の籠)」とか、日本だったら、もう今はお亡くなりになられましたけど、下坂 幸三先生の論文とかが、ほとんど唯一の手がかりで、ヒルデ・ブルックも下坂幸三先生も基本的には、あの、フロイトの精神分析というものをベースにして、摂食障害とか拒食症とかを捉えておられたのね。

私たちはそういう本を読んで勉強してたわけ。だから、そこの中で言われているのは、「成熟拒否である」とか、「よろしくない母娘関係である」とか、「弱っちい父親である」とか、まあ、 定番ですけどね。だから、そういう風なところに焦点を当ててなんとか治療しよう…みたいな考え方を最初は持っていました。当然、自分は経験ないからね。

しかし自分自身がですね、長いこと治療していくに当たって、だんだん考え方が変わってきたわけです。例えば精神分析したりお母さんとの関係をメインに考えたりするのはしょうがないんだけど、お母さんのカウンセリングもたくさんしたんですね。お母さんはすごく困っておられました。

…で、私自身も母親でね『なんかお母さんって損だよな』って思ったわけですよ。こんなに一生懸命娘さんのために来られて、本当に娘さんに攻撃されたりとか、家の中をめちゃめちゃにされたりとか …ま、ご本人が苦いからですけどね。

それで、1人で頑張っておられるのに、お母さんのせいだと言われて、『なんかお母さんっていいとこないよなぁ』って感じで。私、それで先人の偉い先生が言うように、本当にお母さんと娘さんだけの問題なんだろうか…というふうに思いだしたのね。これが私の摂食障害の捉え方に大きな影響を与えたものの一つ目。

二つ目はね、私が初めて臨床心理学の専門雑誌に載せた論文で、昭和60年の10月に「神経性食欲不振症の男子例の心理的背景について」っていうのがあってね。今から見れば中身はあんまり良い論文だとは思えないけれど、当時は摂食障害の男子例って、非常にまれだったので一例でも報告する価値があったので載せてもらったのね。

その時に思ったのは『あ、そうなんだ。女性だけの病気じゃないんだ。男性だってなるんだ』って思って、当時私は『これからは男性も増えるだろう』と思ったんですね。

今、男性も増えているので当たってますけど。だから、男性と女性になにか共通の病理とかしんどさがあって、これ は摂食障害という形で出てるんじゃないだろうか…というのを思いだしました。

それから、三番目の転機はですね、1997年に大学院を修業して、1998年にアメリカのバーモント大学というところに半年間、スタッフ留学して向こうで研究をしてたのね。
そこで一番印象深かったのは、非常に臨床心理学の分野にフェミニズムの考え方が導入されているということですね。摂食障害っていうのは個人の病理であるとか、家族の病理であるとか、お母さんの病理であるとかね、そういうこともあるかもしれない。

でも、やはり世界的に発症地域とい うのは限られているわけですから、『これはやっぱり文化病でしょ』…という風に強く思ったわけですね。80年代くらいなんかはフェミニズムからの摂食者に対する色々な文献とかも出てくるようになってきたんで、そういうのに非常に関心を持って。

だから今は、摂食障害っていうのは社会・文化的な要因と、それから個人のパーソナリティーもあるし、家庭要因もあるし、そのようなものが複雑に絡まりあった結果だろう…というふうに思っています。
色々見解はあるとは思いますが、一番やっぱり大きいのは社会文化要因であろうと私は思っています、私はね。だから、世の中が少し変われば、こういうことで苦しむ人は少し減るんじゃないかなあ…というふうに思います。

それから、もう一つ言えることは、やはり摂食障害っていうのは、こういう時代状況とか文化状況の中でおかれて、何かこう…表現だと思う。自己表現だと思う。すごいしんどいやり方ですけどね。
だけど、私ら心理士の言葉で言えば、無意識の表現だけど…その人たちがドンドン増えているということは、これは、一方では個人の問題でもあるし、私たち社会の問題でもある。

そして、その社会に対して、摂食障害というしんどい方法を使って、色々訴えかけている人たちがいる…という見方も出来るなあと、考えています。

私たちの社会と摂食障害の人っていうのは、ちょうどパラレルで、摂食障害の人たちが、表現者として私たちの社会の病理を、身体を張って鏡で写してくれているんだと思っています。

-個人的なことですが、私が摂食障害の克服するにあたって、コミュニケーション力をつけることで克服に至ったんじゃないかと感じているんです。先生も、金子書房さんの児童心理という雑誌に「言葉の力不足が問題行動をおこす」と、2008年9月号で執筆なさっていますが、摂食障害も当てはまるとお考えでしょうか。

そうですね。この雑誌は別の意味で書いたものなんですが、私の本日の基本的コンセプトは「摂食障害は表現である」ということですね。だから、身体を使って表現をしてるわけです。身体とか、病気とか、症状を使って表現してるわけです。

それを、もしも言語的な表現に変換することが可能であれば、誰もそんなしんどいことをせんでもいい訳ですよ。…で、「そのコミュニケーション能力はどうしたら、育つか」っていうことですけども、基本的信頼感=Basic security(ベーシック セキュルティー)っていうものがありますけれどもね、それは養育者と赤ちゃんがちっちゃい時に、安定した関係で作られるもんやというふうに、一応、心理学ではなっています。だから、「お母さんが悪い、お母さんが悪い」…ということになるんだけれども、でも、 ある程度 Basic security が高い人でも、ストレスが、ガーっと負荷が大きくなると、やっぱりドンドン発症するわけです。
それをなんとか取り戻すためには、人への信頼というものを取り戻していく過程でもあると思うんですよね。

…で、摂食障害の人を治療してて、私が考えているひとつの山は、「摂食障害ですよ」って、自分の大事な人にいえるかどうかです。それがね、最初の壁ですわ。

 

女性の生きづらさと摂食障害の関連

-先程、バーモンド大学で先生が影響を受けたと言う「フェミニズムの考え方」についておっしゃっていましたが、それは具体的にどのような考え方でしょうか。

私は、心理臨床家であると同時に、自分はフェミニストだと思ってるわけです。それで、今日はあなたにこの話を是非したいと思ってて待ってたんだけど、「なんで摂食障害が女性に多いのか」っていうところから掘り起こして考えた時にね、三段論法で言えばですね、

 ◆摂食障害は女性に多い  
 ◆摂食障害の人は低い自己肯定感を持ちやすい
 
◆すなわち、女性は低い自己肯定感をもちやすい

ということです。まあ、…男性もいますけどね。これはですね、私は『今のあらゆる社会で、女性の方が生き辛いんだ』と思います。
これを言えば、男の人から ブーイングがあがると思います「男だって大変だ」ってね。ただ、表現が違うのね。男の人も自己肯定感が低かったりするんだけど、男性っていうのは例えば、 他人に対する暴力・DV・児童虐待・粗暴犯と言われる人たちであるとか触法行為とか、外に自分の欲求を出すという風に、ジェンダーとして育てられるわけです。

ところが、女性の方は、低い自己肯定感を持ったときに…、まあ…子どもを打つ(ぶつ)人もいますが(笑)、そうではなくて、自分へ攻撃性を向けるわけですね。その「表現だ」っていうのは、例えば「自分はこんなにしんどいんだよ」「自分っていうのは、こんなに自信がないんだよ」って言う時に、やはり女性は自分へ攻撃性を向く表現を取りやすい。

それら全部を見ると、やはり『社会の中で女性がどのように置かれているか…ということと深く関る』というふう に私は思っています。

でも、例えば発展途上国といわれる所から見れば、「(日本の女性の)地位は、(発展途上国の女性の地位より)ずっと高いじゃないか」と、思われますね。 そしたら「(女性の地位は)高いのに、なんで?」って思うんだけれども、そこにはもう一つ商業主義っていうのが入っていてね。例えば、「痩せている女性が良いんだよ」とか「スマートでないといけないんだよ」とかいったようなことを、女性たちが大量に、毎日毎日、情報を押し付けられる社会でないと、そう いうことは起こらないわけなんですね。

-いわゆる、洗脳のような感じですか?

そうですね。だから、私が学生に言っているのは、摂食障害の発症地域っていうのはマクドナルドとコカコーラのあるところって言ってます(笑)。

-あー、なるほど。

アメリカとか白人女性の美のスタンダードっていうのが、大量の商業主義とコマーシャリズムと、宣伝とで、ドンッっと入る地域になると、摂食障害がウワーッと出てきます。だから、中国でも上海・香港・北京都市部ですね。それから、イスラムの国ですね。
いつも学生さんに言うんですが、イスラムには色んな宗派がありますよね。宗派によって、頭から足元まで覆う衣服を着てますよね。あの衣服で外へ出るのに、なんで痩せなきゃいけないのって訳ですよ(笑)。 でも知識層とか富裕層で、西洋のそういった文化に触れている人たちから摂食障害になるんです。

お金持ちでない人は、摂食障害にはなりませ ん。それは、いちいち文献を挙げられないんだけれど、国際的な摂食障害の研究で、色々と出たりしてるんで、そんなに間違いではないと思います。

…で、私が今日、絶対言いたかったことは、『私は、ジェンダーステレオタイプっていうことと摂食障害とを、非常に関連づけて考えている』というこ とです。

ジェンダーステレオタイプ。
まあ、「決まりきった性役割」っていうことです。例えば、「女性は美しくなければならない」「可愛くなければならない」「女性は優しくなければならない」「女性は、自分がお世話されるより、人をお世話できなくてはいけない」「よく気がつかなくてはならない」…といった、外見や行動や考えのあり方の「性のありかた」です。

反対に「男性は強くなくてはいけない」それから、外部容姿は構わなくて良いけれども「社会的なパワーを持たねばならない」…要するにお金を持つということです。それから、「攻撃的でなければならない」。 こういったものというのは、あなたも私も私たちの社会も、ほとんど無条件で取り入れています。
それを全部失くすのには非常に難しい。

しかし、その延長線上に「女性は美しくなるために、どうたらこうたら…」というダーッっとこう…色々な産業があるわけでしょう。そういうものに摂食障害の人は陥落してしまいますね。それから、自分が嫌だと思うことを、人に必死で攻撃するよりかは、嫌なことがあった時に自分の身体を攻撃してしまう。

だから、そういった「女らしい」…これは、ボスキン アンド ホワイト著書の「女らしさの病」という本を読まれたら良いと思いますけれど、そういう「摂食障害っていうのは、今の私たちの社会が考えている、全う(まっとう)だと思われる性役割の中にじつは潜んでいるのだ」ということ。


ここからが正常でここからが不正常だという線引きは非常に難しい。だから「当たり前だ」と今まで思っていることを「本当にそうなのか」という風に問い直す姿勢みたいな、相対的な価値観というか違う視点から物を見るというか、そういったことがある程度助けになるかもしれません。

でも、そこに行くまでが大変で…「言うは易し」でね(笑)。もう頭の中は「痩せた若い人は美しい」とか「輝いて見える」とか「どうしてもあのブランドの7号の服が着たい」とかね。
「何?痩せること?それがどうしてん」という所までは、なかなか行きません。

 

”女性同士が競争者から仲間になれるコミュニティ” に期待

-中村先生は、摂食障害学会の評議員としての顔をお持ちです。摂食障害学会とは、どんなところでしょうか。

私を摂食障害の学会にお誘いいただいたのは、初代会長の中井義勝先生(元 京大内科医)なんです。厚生省が立ち上げた班研究でずーっとご一緒させていただいてたので、「評議員で入ってください」って。
会員はお医者さんが多い中でのお話なので、それは非常にありがたいお言葉だと思って、喜んで参加させてもらったんです。

その学会に行って、もう一つ嬉しかったことは、他の学会っていうのは、良くも悪くもお医者さんによるお医者さんのための…というのが多いわけですね。ご発表なんかもお医者さんが多いし。でも、ここの学会では、パーセンテージとしては少ないですけど、心理臨床家も発表できるし、それから、看護師さんも発表できるし、そしてやっぱり、なにより嬉しかったことは、当事者である患者さん・家族会、それから、かつらさんなんかも属しているセルフケアグループ の人たちも学会で堂々と発表されているということは、すごい嬉しかったですね。

-自助グループも学会で発表されてるんですか。先生は、自助グループを応援していると聞き、とても嬉しく思いました。

あの、そのことについて、もうちょっとお話しても良いですか。
21世紀になって「摂食障害の治療っていうのは、どういう風になっていくべきか」って考えた時に、まあ…はっきりいって周囲はすごい冷たいですわ。

本当に、ちゃんとした機関・病院もないし、外国だったらあるような摂食障害に関して専門家が集まった治療機関もないしね。摂食障害っていうのは、色んな専門家が集まって治療しますのでね。お医者さんだけでもダメ、心理士さんだけでもダメ。そういう風なセンターもないしね。

本当に患者さんは、どこに行ったら良いのかわからないって感じ。
難民っていうか、そうなっちゃうんですね。
でも、患者数はドンドン、ドンドン増えていっている。それは好ましいことではありません。その時に、克服したり回復した人たちが声を上げて、そして、「自分達で助け合って、やろうよ」って、自然発生的に起こってきてますよね。それって、偉い専門家の先生が「自助グループをつくろう!」って言って始まったわけじゃないですよね。

ところが最初、専門家はですね、割とクールなんですね。 「なんか、やってはるわ」みたいな感じ。でも今、学会の中でも一つの立場を得るくらいの大きな力をもってきたわけです。それは、まさしく効果があるからです。

いいですか。だから、先生方がたくさん勉強して、新しい治療法とかを次々取り入れて、やることも必要ですよ。だけど自助グループ、それから同じ悩みを もつ人たちが語りあう場所。やはりこれは女性…まあ、男性が入ったらイカンとは言いませんが…、女性同士のネットワークだということは非常に大きいと思ってるんです。

そういうふうにグループの中での治療っていうか、自分達で立ち直っていくっていうのは、自然な流れであること。それから、摂食障害が病院から離れてコミュニティーの中でね、自分らの問題であるっていうふうに捉えられていく良い機会だと思うし、まあ、平たく言えばとても期待してるんです。

ただね、残念なのは、そういう人たちに対して、何も公(おおやけ)の援助がないということです。
これはちょうど、学校恐怖症とか不登校が辿った歴史とほぼ一緒なんです。不登校というものが日本の中でどう扱われ、どういう風に専門家は関り、どうなっていって…っていう、そんな流れと一緒なのね。

不登校は最初、学校恐怖症って言う小児神経症という病気だったんです。しかし、だんだん、あまりに増えてきてね。これも文明病なんですけどね。そして次に登校拒否という名前に変わって、今は不登校っていう名前に変わりましたが、最初は親御さん達はすごく困られて、もちろん小児科医のところに行き、児童精神科医の所にも行き、あちこちさ迷われて。居場所がない。

で、例えば、非常に有名な東京シューレっていうフリースクールがあるんですけれど、そこは、ご自分のお子さんが不登校になられた小学校の教員のお母様が、子どもに居場所を作りたいということで、自分で私財を投げ打って、1人で始められたんです。そうしてドンドン全国から不登校の児童生徒が集まってきて、大きくなって東京シューレ(シューレ=ドイツ語で「学校」)が出来て、そうしてある程度力がついて、やっと国から認められ、援助が出たのね。実績主義なんですよ、日本は。

だから今、未来蝶さんも、どこの自助グループもみんなそうです。運営費とかですごい苦労してらっしゃると思うんだけど、それはやっぱり、日本の社会の中でそういう活動が認められていくきっかけとして、摂食障害学会にそういう人たちが集まってネットワークが出来て、情報交換が出来て、そうして日本全国に点と点が結びついていって、一つの社会運動のようになって、そして、例えばたくさんのNPOが出来るというような形になっていったら、もっともっと社会的に認められるし、たくさんの人がそういったところに参加することが出来て、早い段階で救われたり、摂食障害とともに生きながらも、より充実した、質の高い人生を送れたらそれで良いかなァって、思ってます。

-先生が、こんなにも自助グループを応援していると知り、すごくジーンと来ました。

うん。専門家が出来ない効果があるんですよ。
さっき、不登校の例をあげたけどもね。何でもそうです。DVサバイバルの会も児童虐待のサバイバルの会も性的被害を受けた人のサバイバルとかもね。

そういう人たちっていうのは、やっぱりこうみんな自分達で回復者として「自分もそうだったんだ。自分はなん とか乗り越えたから、同じ悩みのある人を、次は助ける側に回ろう」っていう活動。

そういうのはやっぱり、アメリカは非常に盛んなんですね。だから日本もそうなったら良いなあって。 あと、今の社会は「女性同士が仲間ではなく競争者にさせられている社会」ということに対しても、自助グループには期待してます。

-それはやっぱり、「痩せる」「痩せない」とか「太ってる」「太ってない」という競争という意味ですか?

そう。女性同士っていうのは密でね、いわゆる girls talk って言ってね、ぐじゃぐじゃ話してるけれども、ある意味ではどっかで「競争者」。
例えば「どうした方がより美しいか」とかね、もっと露骨にいえば、「どうした方がより異性の関心を引くか」「どうした方が勝ち組になれるか」とかね。例えば色んな商品が売られてますよね。「これで差をつけよう」「これで一クラス上の~になろう」「こうしたらお嬢様っぽく見える」とかね。差別化ですよね。

その目的は何かって言ったら、男性の関心を惹くっていうのもあるけども、「他の女性からも羨ましがられよう」とかね。そうすると、他の女性たちっていうのは仲間ではなく敵ですよね。「この秘密だけは誰にも言え ない」(笑)みたいなね。「どうしたの?今日は髪が綺麗で」「うん、これは秘密」みたいなね(笑)。

だけど、自助グループはすごく良いなと思ってるのは、 フェミニストの考え方で、woman grows in women’s network (ウーマン グロース イン ウィミンズ ネットワーク) というのはですね、女性のネットワークの中で女性が育つ…という考え方なんです ね。

でもそれは、お母さんと娘が仲良くくっついてるっていうことではありませんよ。社会文化的な「女性はこうあるべし」っていったようなところから、少し自由なコミュニティーっていうのを確保して、その中で本音のトークが出来て、そうして自分が自由に表現できて、そうして「女性は競争者ではなく、助け合ってくれる仲間なんだ」っていうところで人間への信頼をとりもどす…っていうのを、一つのコミュニケーションのスキルアップという部分で自助グループに期待しているんです。

 

自尊感情も、1枚のカードが裏返ると変わる

-先生は、追手門学院心理学の教授という顔もお持ちです。心理学教授の1人としてお伺いいたします。学校の授業で摂食障害は、どのように紹介され、どのように学生に理解されているのでしょうか。

えーっとですね。授業の中で、メンタルヘルス論という授業を持っているんですけれど、その中で青年期の問題として、一コマを当てて摂食障害の話をしています。
それは、学生さんには「私が摂食障害の専門なので」ってお断りして、摂食障害にはこういう風な要因があるんだとか、こういうふうに起こってき てるってことを説明しています。

その時は受講生の中で必ず何人か摂食障害の人がいるという前提でお話しています。「きっとこの中にも、(摂食障害の 方が)いるはずだ。その方も黙って聞いててね」っていう感じで。…で、男性にも言います。「あなたのガールフレンドも摂食障害かもしれない。」「男性もいますよ」っていう話もします。私は必ず、「そんな病気があるんや」っていうんじゃなくって、「自分と関りのある」「関るかもしれない」っていう形で、ご紹介するようにしています。

-生徒さんの反応とかは、どんな感じですか

うん。授業が終わると、よくやってくる質問は、「僕の友達、私の友達で摂食障害の人がいるんだけれど、どこに行ってもらったら良いですか」…という質問をしに来られますね。…で、そのときはですね、私は「どこどこ(場所の説明)」という言い方はしません。なぜかというとですね、一人ひとり、やっぱ りバックグラウンドが非常に違うんで、「詳しくお話を聞かないとお教えできないわ」と言ってます。

…で、研究室に来てもらってお話させてもらうと、「じつ は私がそうなんです」と…。(やっぱり)いてはります。じっくりお話をきいて、その人の状態とかを見立てをして「あなたには、こういうのが良いんじゃないの」というふうな感じで、色々、サッジェスションさせてもらうっていうことになりますかね。

-なるほど。学生さんにもおられるのですね。では、摂食障害の学生さんにもお伝えしていると思いますが、先生が摂食障害の方にお話する回復へのヒントなどがありましたら、教えていただけるでしょうか。

人間ってデリケートな動物でね、さっき言ったような社会・文化・家庭の中にあっても、全員の女性が摂食障害にはならないですよね。

だから私は、よ く例え話で言うんだけれども、「摂食障害は複合要因である」。そうですよね。だから、何かが足し算されていって、あるとこまで行ったら、ピキッと発症する わけです。だから、反対に言えば、さっきの足し算の何かが減れば、少なくとも症状は抑えられる。そして、自己肯定感や自尊感情も、何らかの要因の一枚の カードがちょっと裏返るだけで、変わる…っていうことですよね。

それは、たとえば、パートナーが出来ることかもしれないし、子どもが生まれることかもしれないし、カウンセリングを長いこと受けて、カウンセラーとの関係で自分を回復していくことかもしれないし、そこに、自助グループでみんなと語り合うことか もしれないし、色々なやりかたがあると思います。

-やりかたにも、色んなカードがあるということでしょうか。

そう、入院でも良いのね。そうして自分で入院することによって、行動療法で「ちゃんと食べられたやん」と、自信を持つ。山に登る道はいっぱいあるって感じ。一枚カードが裏返るだけで、全然、世の中が違って見えるんですよ。

-あと、カードをいかに減らしていくかですね。

そうです。それか、カードはそのままで、それ以外の部分をどれだけ増やすかです。
例えばね、摂食障害の一番ひどい時っていうのは、頭の中は食べ物ばっかりでしょ。人と話しをしてても、お昼どうしょうか…とか、この人に食事を誘われたらどうやって断ろうか…とかね。それを叩き壊して減らそうと思う必要はないわけで、まあ、カウンセリングを受けたりなんかしながら、ちょっとづつ他の部分を増やすわけです。

そうすると、その人の心の中で、食べ物について関っているものっていうのは、相対的にウエイトが低くなる。だから、私はクライアントさんによく言うのは、「今ある症状をなんとかしようと思うな。 それは、あるもんや」と。「だけど、他のことがちょっとでも増えていけば、それは段々小さくなっていく」

-他の事に集中できるものがあれば、ちょっとづつそれに集中していって、それが楽しくなると、段々、食がどうでも良くなっていくということですね。

そう、背後に追いやられる。
ただね、そのプロセスは「ほんだら、自分一人でやれよ」っていうのは(笑)それは絶対無理なのですよ。そのために私らがいるわけで。おかげさんで(笑)。
そのプロセスは、さっき言ったように色んなカードがある。

-おっしゃってることがよくわかります。自分の経験とすごく重なります。

よかったわ(笑)。

-最後に、先生から読者にアドバイスやメッセージがあれば、お願いいたします。

難しいなあ。…(しばらく時間を空けて)一番はですね、やはり身体の症状が甚だしい(はなはだしい)人は「生きながらえて下さい」ということですね。

生きながらえてくれなかったら、カウンセリングも自助グループもないですからね。とにかく、命を大事にしてほしい。もしも、貴女が30㎏も体重がないようなら、お医者さんに行って下さい…っていうことですね。それは是非、お願いしたい。

それから、やっぱり身体の色んな所に症状が出ると思うんですよね。食べられないとか、月経がないとか、それから、ほんとに低カリウム症で命が危ないとかね。それから、1日に6時間も8時間も食べ吐きしてるとかね。行動・身体にすっごい症状が出てる時は、いくら「心の問題や」って言ってもですね、もう脳が完全に萎縮してますので、どないもこないもしゃーないですわ。

だからその時は、とにかくお医者さんの所に行って、ある程度カウンセリングを受けれるように なったり自助グループに行けるようになったりね、ちょっとエネルギーを回復するまでは、まず、体の症状をある程度取ることに専念していただきたいですね。

アメリカで1950…何年が忘れちゃいましたけど、生理心理学上有名な飢餓実験というのがありまして、健康な成年男子を何名か集めてきてですね、 すごい低カロリーのご飯を毎日、食べさせたんですね。そしたら、摂食障害の人と全く同じ症状になるんですよ。一日中、食べ物のことばっかり考えて。そうな んです。だから、まず低栄養と栄養失調状態で起こっている精神症状を取らないといけない。それにはやっぱり身体を回復させて脳をある程度回復させて栄養を与えてください。

そこから後は「非常に、食に対するこだわりが強い人」「色々行動化する人」によって道は違いますので、どんな専門家に会われるか、どんな方法を取るかは知らないけど、自尊感情を高めるために、一歩一歩、歩いてください。
自分の出来ることから、何か一つでもいいから、一歩踏み出してみてください。

それは本当に、人によって違うのでね。例えば、誰かに「自分は摂食障害なんだよ」って打ち明けることかもしれないし、1日6時間、食べ吐きしてるのを5時間30分に減らすことかもしれないし、学校に行けてない人だったら学校のプリントをちょっと見てみるとか。だから、人様々です。「貴女が出来そうなことを 何か一つ始めてみませんか」っていうことですかね。

-「難しく考えずに、自分に出来ることから始める」と考えると、気を楽にして一歩前に進めそうですね。
先生、本日は本当にありがとうございました。

 

中村このゆさんプロフィール

中村 このゆ(なかむら このゆ)

1974年 3月  同志社大学文学部文化学科心理学専攻卒業
1993年 3月  甲南大学大学院人文科学科応用社会学専攻修士課程修了
1997年 3月  甲南大学大学院人文科学科応用社会学専攻博士後期課程修了
1998年 3月  アメリカ合衆国ヴァーモント州立大学人文科学部心理学科非常勤准教授

この間国立京都病院(現京都医療センター)、株式会社竹中工務店カウンセリングセンターなどで心理臨床活動に従事

2000年 10月  群馬大学教育学部教授
2005年 4月  岐阜聖徳学園大学教育学部教授
2006年 4月  追手門学院大学心理学部教授(現在に至る)