HOME > わたしたちの声 > わたしたちのストーリー > Vol.3 優飛(ゆうひ)さん

 

罪悪感がもたらす“ねばならない”を手放すプロセスで
必要だった症状たちも徐々に手放せるように

根底にあったのは、存在への罪悪感

回復したと思うか?と聞かれると、まだ回復途上だと思っています。
小学生の頃の万引きに始まり、薬物、摂食障害、男性依存、自傷行為など、いろいろな症状を持ちながら生きてきましたが、約3年前、24歳のときに依存症の専門病院につながって、安心できる居場所や信頼できる人たちとの出会いの中で徐々に症状を手放してきました。

薬物や万引きなどがすべておさまってから、最後に過食の症状だけが残っています。ですが、それも昔のようにひっきりなしではなくなりましたし、過食かもしれないと思う量を食べても罪悪感は感じなくなりました。

すべての症状の根底には、AC(アダルトチルドレン)ということがあったと思います。私は母子家庭で育ったのですが、母には「母子家庭の子どもだからって言われたくないでしょ」と言われ続けてきました。
小さな頃から、自分の存在に深い罪悪感を覚えながら生きてきました。だから、とても“いい子”でした。いい子の仮面の奥、人には見えないところで出ていたすべての症状は、罪悪感に見合う行動をして安心感を得るためだったような気がします。そして、わたしはいい子なんかじゃないんだ!と証明したかったのかもしれません。

過食の症状もその一つでしたが、とてつもない罪悪感に見合うような、もっと社会的に罰せられるもの、もっと自分を傷つけるものとして、薬物や万引きということだったのではないかと思います。

安心感が欲しくて

摂食障害の症状が出る前から万引きをしていました。食べ物も盗ったけど、過食のためというわけではありませんでした。食べ物がとまらないのと同じように、万引きがとまらなかったのです。
過食の時は朝起きた瞬間から食べ物のことで頭がいっぱいでしたが、万引きの 時は、朝起きた瞬間から“あのお店開いてるかな”などと考える事から一日がスタートしました。そして、万引きをするためだけに出かけ、帰宅後は緊張感をほ ぐすための薬物の摂取。

欲しいものはお金を稼いで買えばいいとまっとうなことを言われても、まったく心に響きませんでした。そんなことを言われても、それは自分が一番良く分かっているんですよね。どこかでやめなきゃという気持ちもあるのですが、むしろ、法律をおかすことだからこそやっていたというか、悪いことをしたかったんです。万引きをすると、安心感が得られました。

夢中で食べているときにリラックスできるのと同じで、すごくスリリングな緊張感の中で“人から咎められるような行動”をとることが、私に安心感をもたらしてくれました。万引きも、その心情のプロセスは過食や自傷行為や薬物の摂取に近かったと思います。

“ねばならないことなどない”という気づき

そんな毎日の中、社会の中で生きていくことがどうにもならなくなり、病院につながりました。それまでは “ねばならない” という価値観の中で生きてきた私でしたが、病院にはその価値観がなく、それがすごく新鮮でした。
“ねばならないことなんかない”という新しい価値観に出会うことができたのです。

こんなに単純なことだったんだ!とつくづく思います。すごく頭が固かったんだなあと。自分を縛ってきた価値観から抜け出すのにほんとに時間がかかったなあと思います。
病院の中には、好きにしていいんだよという雰囲気があって、今の自分でいいのだと感じることが できました。今では、つまづくことがあっても、「つまづいてるなあ」「それでいいんだな」とそのままを感じることができるようになりました。

退院して2年近くが経ち、今は自助グループへの参加を主体とした自分の為の生活をしています。月に2回、万 引きの院内ミーティングにメッセンジャー(先を行く仲間)としての参加もさせていただいています。最近、週一回のアルバイトにも通い始めました。焦っても仕方がないですものね。じっくり歩いて行こうと思っています。

本当に欲しいものに気づけたなら

万引きのミーティングに出ていると、摂食障害の仲間も多くいらっしゃいます。
自分もそうでしたが、法律や常識や道徳といったものさしに、本人自身が縛られているように見えます。だから、より一層苦しくなるんだなと感じるんです。
既成概念の法律や常識はひとまず置いておいて、何が欲しくてモノを盗るのか、食べるのか、本当に欲しいものはなんなのか、考えてみる時間があったらいいなあと。

でも、必ずいつかとまると思 うし、絶対に楽になるときは来る。いまそれが自分にとって必要だから万引きや過食をしているということは自分自身に対して認めてあげてほしいです。

今苦しんでいる仲間に、「仲間はいっぱいいるよ、悩んでいるのは一人じゃないよ」と声をかけたいです。私は真っ只中のとき、回復した人の言うことがまったく信じられなかったし、なんとかなるなんて思えなかったし、一生このままだと思っていました。本当は、「大 丈夫だよ、なんとかなるよ!」と声をかけたいのですが、自分では到底思えなかったから簡単には言えません。でも、もし昔の自分に今の私が声をかけられるとしたら、「なんとかなるよ!」と言ってあげたいなと思うのです。

(2009/6/20 取材・文 あかりメンバーいづ)

 

プロフィール/発症からいままで

優飛(27歳)

東京都在住。摂食障害、薬物依存、万引き癖、男性依存などのアディクションと共に生活中。
小学生の時の万引き癖からスタートし、過食や薬物等を使いながらも24歳で底つき。入院と同時に薬物や万引き等は手放すことができたが、過食症状を手放す決心をするまでに時間がかる。現在はもっぱら回復に専念するために自助グループに通う日々。