ただでさえ辛い摂食障害の症状に加えて、子育てという大変な仕事…。摂食障害を抱えながら、日々一生懸命にお子さんと向き合うお母さまは、多くいらっしゃることと思います。
 
“自分の症状が子どもに影響を与えないか不安だ”  “子どもに申し訳ない気持ちでいっぱいだ”…。あかりプロジェクトにも、そんなお声をたびたびいただきます。
 
そこで今回は、心療内科医で子育てハッピーアドバイスなどの著書も多数お持ちの明橋大二さんにお話をお聞きしてきました。
 
(取材・文 あかりプロジェクト ちいちゃん)
 
 
わたしたちを柔らかな笑顔で迎えてくださった明橋さん。優しく心地のよいトーンでお話してくださる半面、驚くほどに本質を鋭く見抜いていらっしゃり、摂食障害経験者のわたし以上に摂食障害をよくご存知だと感じる場面がたくさんありました。ひと言ひと言がしっくりとわたしの心に響き、心の奥の方が喜びに溢れる、そんなインタビューとなりました。
わたしも一人の娘の母親。
インタビューをしているうちに不思議と心が癒され、家に帰ると、こんなに娘に優しくなれたのは初めてなのではと思うくらいに心が解放されていたのでした。
 
周りでも摂食障害を抱えながら子育てをしている方が増えていて、わたし自身、その特有の辛さというものが少しでも楽になるような言葉がほしかった、そんな矢先に明橋さんにお会いする機会をいただきました。
 
富山県射水市の真生会富山病院心療内科部長を勤める傍らで『NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと』の理事長もされ、『子育てハッピーアドバイス』などの著書を多数お持ちの明橋さんは、子どもの権利や成長、子育てに関しての造詣が深く、また摂食障害の方も多く診ておられますので、記事を読んで心が楽になられる方がずいぶんいらっしゃるのではと思います。
 
生きるうえで『自己評価、自己肯定感』を育むことの大切さを、みごとにわかりやすく教えてくださり、これは子育て特有でも、症状の有無でもなく、すべての方に共通していることだと実感しました。

子育てで大事なことは、自己評価、自己肯定感を育んでいくことです

―先生は『子育てハッピーアドバイス』などの著書をお持ちで、『NPO法人 子どもの権利支援センター ぱれっと』の理事長でもいらっしゃいますが、子育てや子どもの成長に関しての先生のお考えをお聞かせいただけますか?

 
子育てで一番大事なのは、子どもの心に自己評価、自己肯定感といわれるものを育んでいくことなんです。
もちろん、しつけとか勉強も大事だけど、その土台になるのが自己評価、自己肯定感ということなんですね。
 
自己評価、自己肯定感というのは、要するに「自分は生きている価値がある」とか「大切な存在だ」とか「必要な人間だ」という感覚。それがあってこそ、しつけが身についたり勉強への意欲につながってくるわけです。
逆に、心配な症状を持つ子どもを見ていると、根っこにあるのは必ずと言っていいほど自己肯定感の低さがあるんですね。
 
摂食障害の人もまさにそうです。
摂食障害というのは、体重増減の問題でもなく、ご飯が食べれるか食べれないかということでもなく、自己評価の問題からきているわけです。
だから、子育てにおいて子どもの心に自己評価、自己肯定感をしっかり育んでいくこと、これがまず大前提ですね。そしてこれは、実は子どもだけに大事なのではなく、大人にとっても、すべての人にとって大切なことなのです。
 
―そういった、子育てで自己評価が一番大事だとか、摂食障害の根本にあるのは自己評価の低さだという考え方というのは、当事者のわたし自身にはとてもしっくりくる考え方なのですが、医学界の中では一般的な考え方なのですか?
 
一般的ではないと思いますね。本とか見てみると全然そういうことに触れていないものはないと思うんですが、はっきり単刀直入に「これだ」と断定して言う本はあんまりないような気がしますね。だから、よけい迷っちゃうのかなと思いますね。
 
―ほんとですね、そうかもしれませんね。
では、自己評価が子育てで一番大事ということなのですが、摂食障害の根本には自己評価の低さがあるということで、その自己評価の低い方が子育てをされるときに起こってくる問題がいろいろあると思うのですが、それについてお聞かせいただけますか?
 
それは摂食障害の人に限らず、今の親御さんたちの多くが悩んでいる悩みなんですね。子育てが辛い、子育てに自信がないという親御さんが非常に多いんです。

何故子育てが辛くなるかというと、実は親御さん自身が自己評価が低いんですね。自己評価が低い人が子どもの自己評価を高めようと思ってもなかなか難しい。自分のことを駄目だと思っている人は、子どもの駄目なところしか目がいかないし、子どもが悪さしていると自分が駄目な証明みたいになってしまうので困るんですね。

子どもがしっかりして、勉強ができて、お行儀もよくて、そういう子であって初めて母親として自信が持てると思うわけです。だからついつい子どもに叱り、よけいに否定の目で見てしまう。
そうならないためにはどうしたらいいかと言ったら、まずは親御さん自身の自己評価を育ててあげないといけないんです。

 
よく子育て支援と言うけれども、その支援というのはどういう方向で出されるべきかというと、保育園をたくさん建てるとか金銭的な援助をすることではなく、親御さんの自己評価をみんなで育てていくということに尽きると私は思っています。

親御さんが周りから十分認められてほめてもらえる。そしたら自然に子どものことを認められるようになるし、自己評価を高められるようになるんです。自分もオッケー、子どももオッケーというふうに変わってきます。

 
そういう意味では摂食障害の人に限らないんだけども、だけど摂食障害の人であればなおさら、親御さんのがんばりを認めていく必要があるということなんですね。
 
自分のことをほめて認めてくれる人を見つけてほしい
 
―子育て支援の根本は、親御さんの自己評価をみんなで高めることに尽きるのですね。
社会全体がそんな雰囲気になったらいいなと思うのですが、それは現実的にとても時間がかかり大変なことだと思うのです。今のこの状況で、個人個人でできることがあるとしたらどんなことができるのか教えていただけますか。
 
まず、自分は自己評価が低いとわかったら、とにかく身近で自分のことをほめて認めてくれる人を一人は見つけてほしいですね。最終的には自分で自分をほめるしかないということもあるのですが、できれば身近にそういう人がいれば本当に一番いいんです。
 
それが旦那さんだったり親だったりお姑さんだとベストなんですが、現実はそうじゃないことも多い。「もっとしっかりしろ」とか「あんたが甘やかしすぎるからや」とか言う旦那さんやお姑さんもいます。そんな場合は、ママ友やネット上で繋がって聴いてくれる人でもいい。
あるいは、子育てサロンとか子育て支援センターとか保育所の保育士さんとか、そういう人たちの中に自分を受け止めて認めてくれる人は絶対いるはずなんですね。
 
ただ、そういうところでも批判的なことを言う人もいるわけです。
自分に自信がないと、自分を否定する言葉はすごく信じられて入りやすいんですよね。そういう言葉にかぎって、本当に真に受けちゃうんです。だからあえて批判的な言葉には耳を貸さずに、自分をほめてくれる人に話を聴いてもらって、「よくがんばってるね」と言ってもらう。そういう人を一人は持っておきましょう。
批判的な意見には距離を置いて「人は人、私は私」というふうに境界線を引けるといいですね。
 
それと、やっぱり自分自身をほめるということも大事なことです。
自己評価の低い人は自分のできてないところばかりに目が行くわけですよね。だけど、じゃあ全然できてないかというと、できてるところもあるわけですよ。

たとえば、掃除はできてなくても子どものご飯作りはちゃんとやっている。冷凍食品やカップラーメンかもしれないけれど、少なくとも餓死はさせてないということはそれなりにやっているということです。
80%はできてないことがあっても、ちゃんと20%はやってるよねと自分を認めてあげていいんです。

 
我々は、できているのは当然で、できていないところばっかり目がいく。
それは子どもに対しても同じです。ついついできてないところばかり目がいって、ほかのお子さんと比べてこれもあれも駄目という。
でも全然できていないわけじゃな い。毎日ご飯を食べて毎晩寝ている、たとえばそれだけでも子どもなりにがんばって生きているわけですよ。
できているところをちゃんと見ていくことが一番大事なことです。
 
―できないところを指摘して責めるというのは、たぶん今の日本のみんなが身につけてきた生きる術という気がするのですが。
 
そうなんです。学校教育というのが、できてないところを指摘してそれを直させるというようなやり方。聞くのは否定の言葉ばかりですよね。
だけど、欧米は逆に、できているところをほめてふくらましている。すべて欧米がいいとは言わないけど、少なくとも日本の減点主義というのは違うのではないかなと思いますね。
 
―すごく、残酷というか否定的な言葉の中に「甘い考え方だ」という言葉があると思うのですが、摂食障害の人は特に、「できているところをほめたらいいよ」と言われてもきっと、「その考え方は甘い、わたしにはあてはまらない」と思ってしまう方が大半なんじゃないかなと思うんで すが…。
 
「甘い」という言葉を使う人というのは、自己評価が大事だということを知らないんです。しつけやルールが大事だと思っていて、その土台である自己評価の大事さを知らない。その重要さがわかればそういうことを言わなくなると思います。
 
拒食症だからといって、そのことで支障や問題はありません
 
―拒食の症状を抱えた方の子育てについて、先生のお考えをお聞かせいただけますか?
 
基本的に摂食障害の人は自分が栄養を摂るのは不得意な人が多いですが、人に栄養をつけさせるのは得意な人が多い。みんなとは言いませんが料理も上手な人が多い。カロリーもばっちり知っていますしね。

自分が食べなくても、人が食べることで自分も食べたような食欲が満たされる部分がある。自分は食べなくてある程度食欲が満たされる。そういう手段でもあるということと、「美味しい」と感謝されると自己評価が上がる。
食欲も満たされ、人にも喜んでもらえて自己評価も上がり、両得なんです。

是非そういう特技を活かして生きていかれたらいいと思うんですね。だから、子どもの成長の心配なんていりません。

 
―自分は食べずに子どもには食べさせるということで、子どもに何かしら悪影響があるのではないかとか、弱い子どもに育ってしまうのではないかという不安を持たれている方が多いと思うのですが、その点に関して先生はどのようにお考えですか?
 
悪い見本を見せているんじゃないかということですね。
だけど、子どもはあんまり見ていません!子どもは自分が食べることに必死で、親がご飯を食べているかどうかなんて見ていないですよ。むしろ、ちゃんと子どもの栄養のことを心配しておられるわけだから大丈夫です。
自己評価が低いから「やってない」と言うけれど、ちゃんとやってるんです。
 
摂食障害の人でも、鬱になったりしてご飯が作れなくなったりする場合もあるかもしれない。そういうときは、旦那さんに頼むとかしばらく入院をするなどして治しながらじっくりとやっていけばいいんです。
 
―拒食の症状を抱えた方が子育てをすることで、特別、子どもの成長に影響がでるようなことはないということですね。
 
拒食症だからといって、そのことで支障や問題はありません。
 
―親御さん自身の自己評価を高めて、子どもも自分に自信が持てるように育っていったら大丈夫ということですね。
 
その通りです。
 
―では、拒食の症状を抱えながら子育てをされている方へメッセージをお願いします。
 
「症状を抱えながらもこんなによく子育てをよくやっている」と自分に自信をもってください。
拒食の人は妊娠すること自体難しい。生理が戻るところまでいって、相手の人と出会って結婚した。おそらく葛藤があったと思うんです。「自分が子どもを生んでいいのかな」と悩んだと思う。それでも勇気を出して生んだわけです。
その判断は絶対間違ってなかったし、症状を抱えながら子育てしている自分を是非ほめてあげてほしいです。
 
過食症は、罪悪感からいかにのがれるかというのがポイント
 
―拒食の人は「症状を抱えながらもこんなによく子育てをよくやっている」と自信をもっていけば大丈夫とのことでしたが、それはきっと過食の方とか過食嘔吐の方にも共通することなのでしょうね。
過食・過食嘔吐の症状を抱えた方の子育てについても、先生のお考えをお聞かせいただけますか。
 
過食症の場合の一番のネックになるのは罪悪感なんですね。
拒食の人は拒食している間はあまり罪悪感を感じない。制限してがんばっている自分を支えにして生きています。だからこそ症状にすがりつくというか、逆に言えば拒食を失うと自分の価値を失ってしまう。断食というのは昔からあって精神の強さの象徴みたいじゃないですか。だから、体は痩せ細っているけれどもテ ンションは高いんですね。
 
過食は、食べてしまう自分を責める。
食べてしまったという罪悪感で苦しくなるとさらに自己評価が低くなって、辛くなって過食。食べ終わった後に食べ散らかした残骸を見ると、またやってしまったという罪悪感。罪悪感が実は負のスパイラルの原動力なんですね。これは過食に限らず嗜癖に共通した力学です。
嗜癖というのは要するにどんどん同じものにはまり込んでエスカレートしていくわけだけど、エスカレートする原動力になるのは罪悪感。アルコール、買物依存もそうです。周りからも責められるし自分も情けなくなりますしね。
過食も一つの嗜癖行動で、それを止めるには、罪悪感からいかにのがれるかというのがポイントなんですね。
 
そのためにはまず周りの人が、症状が出たときに責めないことが大事です。
「またやっとるんか」とか、「アフリカの人とか食べ物で困っている人もいるのに何でそんな無駄なことするんや」とか。そう言われるとよけい辛くなって食べる。
アフリカの人も苦しいけれど、摂食障害の人も苦しいんですよ。生きるか死ぬかのところで戦っているという点では同じです。それを周りが理解してあげるのが大事です。
 
過食の症状というのは、一つのばけものみたいなものなんですよね。ばけものと戦っているわけで辛いことなんです。だから戦っている人を責めないでほしい。
そして、やっぱり自分自身を責めないでほしいです。過食するのは、意志が弱いからとか、自己中心的だからとか、甘えているということでは絶対にない。病気なのだからと考えてほしいです。病気だから不可抗力です。決して自分の責任ではありません。だから罪悪感を持つ必要はないということです。
 
インフルエンザにかかると「何で40度も熱出してしまったんだ。なんて自分は駄目な人間なんだ」と自分を責めないですよね。だって仕方ないですもん。 なってしまったんだから。
それと同じで“過食”という困ったものにとりつかれてしまった。これは自分ではどうにもできないんです。本当にこれは大変でつらいことです。だからそういう自分を責めないでほしい。
 
むしろ過食や過食嘔吐しながらも、子育てしてがんばっている自分をほめて欲しい
 
―子どもにはお菓子などを制限しているのに、自分は隠れて大量に食べているという罪悪感が苦しいとの声もよく聞きます。
 
自分は病気なんだから、子どものお菓子を制限するというのとは別問題だと思っていいです。切り離して考えましょう。
 
―なるほど。では、嘔吐をしているときに子どもにかまってあげられなくて申し訳ない気持ちになるという声はいかがですか。
 
これは、仕方ないです。
トイレに鍵をかけて、その間は「ちょっと待っててね。」と言って、終わったら相手をしてあげればいいのです。

子どもをかまわないといけないというのがありますけど、24時間ずっと突き放すというのがよくないのであって「そのときはできないけど後で相手する」というふうに子どもに伝えて、後でかまえば大丈夫なんです。

 
―このままでは何らかの悪影響があるのではないか、弱い子どもに育ってしまうのではないかと不安に思われている方が多いと思うのですが、その点に関して先生のお考えをお聞かせいただけますか。
 
過食自体が子どもの成長に悪影響になることはありません。だから、むしろ過食や過食嘔吐していながらも子育てしてがんばっている自分をほめて欲しい、自分を責めないことに力を入れてほしいんです。
 
まずは一度はきちんと親を批判していいんです
 
―拒食も過食も過食嘔吐も、それによって子どもの成長に悪影響を及ぼすことはない、そして症状を抱えながらも子育てしている自分をほめていいということですね。
では次に、子育てするにあたって、まず自分自身の親への気持ちを整理することが大切と以前にお聞きしたことがあるのですが、それについて詳しく教えていただけますか。
 
よく、「子どもを持てば親のありがたみがわかる」とか、「親に感謝できるようになる」とか言いますよね。「親は親で一生懸命愛情を持って育ててきてくれたんだ」というように、世の中、親を擁護するような言葉ばかりなんです。
でもまずは、自分と自分の親との関係で考えたときに、やっぱり一度はきちんと親を批判していいんですよ。
 
学校などでは、結論としたら、「親は愛情を持って育ててきてくれたのだから親に感謝しましょう。」ということを教えるために授業は組み立てられている。
確かにそういう部分もあるのですが、それでは親の接し方で自己評価が低くなったり傷ついたり、自信を失ったことが、全部ないことになってしまうんです。「親は愛情を持って育ててくれたんだから、自分の心がけが悪い」というふうになる。

だけどそうじゃないんです。「確かに親は愛情を持って育ててくれた、だけどこういうことは言ってほしくなかった」、「こういうことは親として間違っている」、「こういうことで傷ついた」と、ちゃんと親を批判していいんです。

親に悪気がなくても、それは事実なので。子どもであった自分は決して悪くなかった、その事実をきちんと親に批判する。それができたら、同じことを子どもにはしなくてすむんです。
 
子ども時代に、親から厳しく否定されてきたことが嫌だと思いながら過ごしてきた人が、親になったとたんに「親がああいうふうにやった気持ちもわかる」と、自分の子どもに同じことをやってしまう。それは、大人になった時点で、全部親を無批判に肯定してしまうからです。
そうじゃなくて、きちんと批判する。そしたら同じことを子どもにまったくしないというわけではないけど、しないですむようになるんです。親を批判しましょうなんて言う人はほとんどいませんけどね(笑)
 
―確かにいないですね(笑)
批判というと、親に面と向かって批判するということなのでしょうか、それとも自分の中にある批判を自分自身で認めるということなのでしょうか?
 
まず、自分の中で認めるということが第一です。それだけでも十分意味があります。
一番いいのは、きちんと親に話して、親に認めてもらえて「悪かった」と謝ってもらえること、これが最高ですね。自分は悪くなかったということを確信できるからそれが理想です。
 
だけど、親御さん自身の中にも余裕がないわけで、「何てことを言うんや、こんなに一生懸命育ててあげたのに責めるなんて。」と逆によけいに責められて傷つくことを言われる場合もあるわけですよね。それなら言わないほうがましです。
 
だから、その中間の方法として、“出さない手紙を書く” という方法もあります。
親に宛てて「私はこういう気持ちだった、こういう風にしてほしかったんだ」とか書く。出さないけれども、一つ自分の中でけじめがつきますね。
 
昔も『ハッピーアドバイス』みたいな子育てが現実にあった
 
私のところに全国から届く読者カードには二通りの感想があるんです。
一つは、「もし30年前にこの本があったら自分はこんなに辛い思いはしなかった。自分がどうしてこんなに自己評価が低いのか、どうしてこんなに辛い思いして生きてきたのかその理由がやっとわかった。」という人。実は親の言葉のかけかたによって辛かったんだと気づき、そこで初めて自分は悪くなかったということを肯定できる人ですね。
 
ところがもう一つの感想はというと、「自分の親はこの本に書いてある子育てと同じ子育てをしてくれた。そういう意味で改めて親に感謝しました。」というもので、半分くらいです。
ご自分はどうでしたか?
 
―私は親を批判していいよと言われるとすごく楽になります。
 
言われるまでは、自分が悪いんだと思っていたわけでしょ。思い込まされている。洗脳ですよね。
 
―確かに、傷ついた自分が駄目なんだと思っていました。
 
昔の40年前でも『ハッピーアドバイス』みたいな子育てが現実にあったし、こんな考え方があったんですよ。『ハッピーアドバイス』は今どきの子育て法みたいな感じで紹介されるけど、私は決してそうは思わない。

「母子密着育児が大事でそれこそが日本古来の子育て法だ」と書いている本の著者が、1924年の大正生まれの方です。そこには、抱き癖をつけちゃ駄目というのはとんでもないと書かれてあります。

 
―そうすると、今は昔に比べて母親が働きに出るような世の中ですが、それと母子密着育児について、明橋先生はどういうお考えをお持ちですか?
 
それについては、大阪レポートという、乳幼児期の発達と親の関わりについて詳しく調べたレポートがあるのだけど、お母さんが接する時間が短い子と長い子とで比べると、長い時間接する子のほうが発達がいい。密着育児というかね。


ところが、お母さんが仕事をしているかどうかということで統計をとったら、優位差は出なかった。


働きに出ると接する時間が短くなるはずで、短ければ発達に違いが出るはずなのに、仕事に出ているかどうかでは発達に違いはない。


何故そうなのかというと、確かに仕事に出ることで一緒にいる時間が短くなるんだけれど、仕事に出ることで自己評価が支えられるとか、子どもから離れることができて気分転換できるとか、その分、短い時間であっても子どもとは良好な関わりができるとか、そういうプラスの面があるわけなんです。
 
逆に、今まで仕事に価値を見出して生きてきた専業主婦の人は、みんなは仕事でバリバリ成果をあげているのに、自分は毎日子どもと何の代わり映えもない時間を過している。社会から見放されたような思いで生きている人もいるわけです。
 
私は子育ても立派な仕事だと思うけれど、そういう価値観を持っている人もいるんですね。そういう人は自己評価が下がるわけです。

だから、仕事をするしないということと、子どもの発育・成長には統計的には違いは出ないというわけなんですね。
 
結論は、お母さんにもいろんな人がいますから、自分は二つを両立するのは大変でストレスがたまるから育児に専念したほうがいいという人は育児に専念すればいいし、働きに出たほうがストレスからも解放されて子どもにも優しくできるという人は仕事に出ればいい。
どちらが自分と子どもにとってハッピーになれるかということで決めたらいいと思うんですね。
 
イライラするのは、一生懸命やっている証拠です
 
―余裕がないことで子どもに八つ当たりしてしまうことは子育てにおいてよくあることだと思うのですが、摂食障害ということ自体すでに余裕のないことなので、子どもに八つ当たりをして苦しんでいる方が多いのではないかと思うのです。
イライラしたときの対処法を教えていただけま すか。
 
余裕がないのはどうしてかというと、それだけ子どもの世話したりいろいろと一生懸命やっているからでしょう。摂食障害の人は頑張り屋さんが多いから、やってもやっても駄目だと思って、人以上にがんばっちゃう。

イライラするというのはそれだけ、子どものことで一生懸命がんばってやっている証拠なんです。
子どものことも一切かまわず家のことも一切やっていないところに、イライラするということはないわけですから、それだけ子どもに関わっている証拠です。
イライラもオッケー、切れてもかまいません!
 
ただ、あんまりイライラするのは自分も疲れるということもありますので、そういうときはどうするかですよね。
そういうときは子どもに関われば関わるほど腹が立ってくるわけですから、子どもから離れる。トイレにこもって鍵をかけて深呼吸するという方法もあると思うんです。
 
また、これは難しいかもしれないけど、発想を変えるということ。
イライラするということは子どもが言うことを聞かないときですよね、思い通りにいかないということは、それだけ子どもが自己主張できる子に育っていて、すごくいい子育てをしているということです。
 
逆に、自分のことを考えてほしいんです。自分はどうだったか、自分はこんなにわがままを言えたり逆らえたかというと、できなかったわけでしょう。親は楽だったかもしれないけど自分はすごく辛い思いをしてきた。だから病気になった。
逆に言えばこの子は親をイライラさせられるだけの自己主張能力が育っているというわけです。
こんなふうに発想を切り替えたらどうかなということですね。
 
―イライラするぐらいにがんばっている、イライラさせられるぐらいに子どもはよく育っていると自分を認めていいということですね。
では、八つ当たりしてしまった場合にその後の対処法を教えていただけますか。
 
どうしても当たってしまったということもあると思います。それはそれでしかたないこと。そういうときは、後で冷静になったときにフォローすればいいんです。「お母さんも怒りすぎたね、悪かったね。」と。そう言えば子どもは安心します。
言葉のコミュニケーションがまだできないような小さな子どもでも同じです。言葉で伝えてもいいですし、抱っこしたり、よしよしってしてあげればいいんです。
 
―八つ当たりしてしまってもフォローがあれば大丈夫なのですね。わたし自身が、とっても楽になりました(笑)
 
子育て支援センターなどでも話を聞いてもらえます
 
―イライラや八つ当たりのほかにも、症状を抱えながらの子育てにおいて悩んだりどうしたらいいのかわからなくなったとき、具体的にどういう場所に助けを求めればよいのでしょうか。
 
摂食障害で信頼できる主治医を持っている人はその先生に話せばいいでしょうね。
ただ、精神科というのは、今や、話を聞いてくれるというよりは脳に効く薬を出してくれるところになってしまっていることが多いので、じゅうぶん話を聞いてもらいたい場合には、カウンセラーがいるクリニックの方がいいかも知れません。

ただ、自費だと、お金も結構かかるので、例えば子育て支援センターなどで話を聞いてもらうのもいい方法だと思います。結構安い料金で臨床心理士の方とか経験豊富な保育士さんとかが聞いてくれたり支えになってくれます。

 
信頼できる人を見つけたら、最初は子育てのことを話してみてちょっとずつ自分の話をしてもかまいません。そういう人たちは、親御さん自身の生い立ちが関係しているというのは百も承知ですから。
 
―それは行政機関ですか?
 
行政機関でやっている場合もあるし、民間機関でやっている場合もあります。
あるいは、子育てサロンみたいなところで、お母さん同士で集まっているようなところで司会進行役の人がいて話を聞いてくれるところもあります。
 
―子育て支援センターなどだと、すでに仲間グループができている場合に入りにくいという人もいると思うのですが。
 
お母さん同士の仲間の中に入るのは苦手という人ですね。子育て支援センターの中だとまだましだけど、昔はいわゆる「公園デビュー」という言葉もあったくらいで、お母さん同士の集まりというのはまさに中学高校の女の子グループの再演で、うわさ話とか仲間に入れるとか入れないとかいうことがあって、そんな中で傷つくようなトラブルがありますね。

摂食障害の人はいじめにあってきたという方も多いので、お母さん同士だけのグループというのはなかなか不安も大きいかと思うんですね。司会役の人がちゃんと見ていて、ある程度雰囲気の管理をしてもらえるようなところに行く。あるいは一対一のほうが関係を作りやすいならば相談に行けばいいのです。グループに入れなくても自分のことをわかってくれる支援者を一人見つける、ということだけでも全然違いますから。

相談に行くこと自体、自分が母親として駄目な証拠なんじゃないかと思う人もいるけど、そんなことは絶対にないし、是非一度利用してみてほしいですね。

 
辛い病気を抱えながら子育てしている自分を認めて
 
―では最後に、先生から摂食障害を抱えながら子育てなさっている方々へメッセージをお願いします。
 
摂食障害というのはつらい病気です。つらい病気を抱えながら、妊娠、出産されて、子育てをされているということは、本当に素晴らしいことだし、よくそこまで決心されたと思うんですね。
まず、つらい病気を抱えながら子育てしている自分を認めてあげてほしいのです。
 
子育てしている間にはいろいろ不安があったり、病気が悪くなったり波があると思います。それは病気を持っていない人だっていくらでもあることなんだから、そういうときには、自分を責めるんじゃなくて相談できるところを頼って助けを求めてもらいたいのです。必ず支えになってくれる人がいますしね。
 
摂食障害の人というのは、人一倍人の気持ちに敏感な人が多いですし料理上手な方も多いですね。そういう意味で言えば子育てに向いている方々だと言えると思うんです。
是非自信を持って、ご自分のいいところを活かしていっていただきたいなと思います。
 
―明橋先生、今日は先生のお話をお聞きして、わたし自身も不思議と癒されました。はやくみなさんにも先生のお話、ご紹介したいです。今日はたくさんの貴重なお話を、本当にありがとうございました。
 
 
 
明橋大二さんプロフィール
明橋 大二(あけはし だいじ)
 
精神科医
現職:真生会富山病院心療内科部長
S34年   大阪府に生まれる
S60年   京都大学医学部卒業
S60~62  国立京都病院内科
S62~H1 名古屋大学付属病院精神科
H1~H5   愛知県立城山病院精神科
H6年1月~ 真生会富山病院心療内科
現在、児童相談所嘱託医、小学校スクールカウンセラー、NPO法人子どもの権利センターぱれっと理事長
子育てハッピーアドバイスは、シリーズで250万部を超えるベストセラーとなっている
公式ホームページ http://www.akehashi.com/