2007年、長野県松本市で活動をスタートさせた、摂食障害の方のピアグループ(=自助グループ)「Peer(ピア)」。当グループでは長野県松本市で 月3回、山梨県甲府市で月2回、当事者やその家族を中心にミーティングを行なっている。
また2010年に「摂食障害コミュニティPeerful(ピアフル)」を立ち上げ、2011年9月には、当事者がつくる摂食障害の方を元気にする雑誌「Peerful」を創刊。今後の活動の広がりが期待される。
今回は「Peerful」の運営者である“はるさん”と、運営サポートの中心メンバーである“Tさん”にお話を聞いた。

(2012/4/14 取材・文 ライター 佐々木淳子)

 

プロフィール

●はるさん(33歳)
「Peerful」の運営者。専門学校を卒業して、就職するがしばらくして拒食症になる。
拒食から過食へ進んだ時期もあるが、ピアグループ「Peer」を自ら立ち上げ、仲間とのつながりや、様々な出会い、経験などの中で、自分の症状もなくなる。
Peerの活動は今年で6年目。今も当事者と同じ目線で仲間たちの心に寄り添う。

●Tさん(25歳)
高校1年の頃から、拒食・過食などの症状が出始める。
今も症状はあるが、ピアに関わるようになってから、より自己肯定感がはぐくまれるようになった。

●Peerful ウェブサイト http://peerful.jp/

 

食べてもいいよ、吐いてもいいよ。症状にこだわらず、ラクにやろう

-摂食障害になった、きっかけはありますか?

はる  特にきっかけはないんです。
当時、雑貨のデザインの仕事をしていたのですが、やりがいもあったし、職場の人間関係も良く、ストレスをためているという自覚はありませんでした。それなのに何となく落ち込む日が増えていって・・・

ある日、風邪で会社を数日休んだのですが、そのまま会社に行けなくなり、親に連れられるまま病院に行ったら、摂食障害だと言われました。自覚はなかったけど、すでに拒食症が進んでいました。


-原因は仕事のストレスではなかったのですね?

はる そうですね、たぶんずっと自分の中に生きづらさがあって、積もり積もって、ある日、溢れて 出た感じなんだと思います。

思い返せば、小さい時から自分に自信がありませんでした。幼稚園の頃から、他のお友達と遊んでいるんだけど、自分がそこにいる感覚がなくて。同じ年齢のクラスの子なのに、みんな年上だって思っていたり、うまく言えないのですが…みんなと同じ空間で同じように遊んでいる感覚がない、みたいな違和感が今から思うとあったように思います。

 私も摂食障害になったから生きづらいのではなく、その前に生きづらさがありました。小学校低学年の頃から、不安や心配、恐れが常にあって、もっと自由に本当の自分を出すことができたらいいのに・・・と思っていました。親に期待されていると感じていて、期待に応えなくてはいけないとも思っていました。

-ピアと出会ってどう変わりましたか?

 「私は私でいいんだ」と思えるようになりました。今も過食嘔吐の症状は残っていますが、精神的に吹っ切れている感があるので、症状もその内消えるだろうと。でもピアでは「症状はあってもなくても、どちらでも気にしないで」と言ってくれます。過食嘔吐はいけないことだと思って自分を責めている人も多いけど、ここでは「症状をなくすために頑張ろうと思うと窮屈になるから、症状にこだわらず力を抜いてラクにやろう」という意見の人が割と多いですね。

はる ピアでは「食べたかったら食べていいし、痩せたいなら痩せていい。過食も拒食も嘔吐だって決して『悪いこと』なんかじゃない。ただ、いつか治ったときのためにも体を壊してしまってはいけないから、壊さない程度に、好きなようにすればいいよね」 というスタンスです。摂食障害の症状だけを問題視するのではなく、心の根本的なところもみんなで考えていけたらいいなと思っています。

 症状ごとまるごと受け止めてもらえるって安心です。振り返ってみると、私は人に恵まれていたと思います。世間一般によく言う進学や就職のレールからは外れているけれども、摂食障害になって以降、出会った人は自分から出会いを求めてつながった人ば かり。人との出会いが私に変化をもたらしてくれました。

 

ここにこれて良かった・・・同じ仲間がいるという安心

-自助グループを立ち上げるのには、勇気が必要だったのでは?


はる いいえ、気がついたら立ち上がっていました。立ち上げるきっかけも、病院の先生に「自助グループをつくりたいと思ってるんです」といったら先生が「ぜひ、つくりなさい。公民館なら場所貸してくれるんじゃない? 近くに公民館あるよ」と言ってくれ たので、そのまま、診察の帰りに公民館に立ち寄ったら、「じゃあ、この日が空いているから予約いれる?」と言われたので「お願いします」っていう流れに なって・・・
(笑)。

最初は公民館で待っていてもひとりだけという日が続いたのですが、広いお部屋にたったひとりでいることすらもなんだか楽しくて (笑)、気にせず続けていったら、ひとりふたりと仲間が増えていきました。自助グループは場所さえあれば簡単にできるし、誰でも立ち上げることができると思います。


-実際、どのような活動をしているのですか?

はる 定期的に公民館に集まって、ミーティングをします。まずは、順番に自分の話したいことを話すのですが、みんなはそれに対しての意見は言わないという「言いっぱなし聞きっぱなし」をします。その後、みんなで自由におしゃべりもします。
 
 話しているうちに涙が出る人も結構いますね。それで「泣いてすみません」って謝る人もいますが、大変だったのだから泣いても当たり前だと私は思います。

はる やっぱり、安心できる場所で、素直な感情があふれて出たときにはじめて、「涙」って出ると思うんです。私はPeerを「安心できる場所」にしたいと思っているので、誰かが泣いたりすると心の中では、こっそり「よかった!」って思います(笑)そんな風に自分の思いを自由に話した後、最後に「最近あった、良かったこと」をひとりずつ言ってもらって終わりにします。

-良かったことを言って終わるというのは、素敵ですね。

はる はい、最初は言いっぱなし聞きっぱなしだけで終わっていたのですが、そうすると重い雰囲気のまま解散になってしまって・・・。「良かったことを言ってください」というと、つらいつらいと泣いていた人でも、「そういえば最近、こんないいことがあ りました」という話が必ず出てくる。そして、照れくさそうにしながらも自然に笑顔になっているんです。

 笑顔で終われるのっていいですね。皆に良かったことを聞くと何かしら出てくる。
一番嬉しいの は「何もなかったけど、今日ここに来られたことが良かったことです」って発言する人が多いこと。きっと、それが一番のいいことなんじゃないですか? 
私も 参加する度、「今日、この場にいれて本当に良かった」と思います。

はる ホント? そんな風に言ってもらえると嬉しい。ピアには家に引きこもっていた人もいるので、 そういう人達にとって、出かける場所があるということ自体が励みになるみたいですね。出かける場所があって、同じ症状を持つ仲間がいる。それが、帰属意識 につながる・・・つまり「ひとりぼっちじゃない」というメッセージそのものになっているかもしれないな、と思います。

 

自分だけじゃないと解ったとき「共感」の笑いが起きる

-雑誌「Peerful」の読者の投稿欄、川柳コーナーが人気だそうです。一部、紹介してみます。

 
 嘔吐には ネバネバ野菜が 役に立つ (ぱん/愛媛県)
 回転寿司 さび抜きじゃなく シャリ抜きで (じぇりー/山形県)
 夜過食 したいけれども 眠いんだ (しろくま/長野県)

はる なんだか「くすっ」てなるでしょ?(笑)この川柳を読んだら、摂食障害の重苦しいイメージが変わるんじゃないかなって思います。川柳のコーナーって、私たちのピアグループのミーティングの雰囲気に似ています。ミーティングの時もすごく深刻なことを話しているのに、途中で本人がくすって笑って、みんなで笑い合うことがあるんです。それって、決してあざけりの笑いではなく「こういう風に食べるよね~」「あー、わかる、わかる!」みたいな共感の笑いなんです。


 こんなことをしているのは自分しかいないと思っていたのに、話してみたら、意外と他の人たちも同じことしていることが判明した時、思わず笑っちゃうことがある。でも、これって摂食障害じゃない人に言っても笑えない。似たような経験を持ち、ツボが同じだからこそ、ネタとして笑えるんですよね。

はる 私も当時、自分が恐ろしい怪獣のような存在だと思っていたけど、今思えば、その姿が必死であればあるほど、笑えちゃう。

 私はみんなの話聞いていて、どの話も映画にしたら絶対面白いなって思うことがあります。映画のストーリーって、はじめは困難やトラブルの連続で、苦しみをいかに乗り越えてハッピーエンドになるかがテーマになることが多い。そう考えると、私たちの 人生はネタに溢れています。このネタが、いつかお金になる日がくるかも知れない!・・・なんてね(笑)


はる アハハ・・・(笑)Tちゃんのそういう発想、楽しくて大好き(笑)
そう考えると、なんか視点が変わる気がするよね。 川柳でもそんな風に、つらい状況を「笑っちゃう」ことで視点を変えられたらいいな、と思うんです。こんなにつらい状況にいる自分のことすら、なにかの拍子にでも「笑っちゃう」ことが出来るということは、自分をちゃんと客観視できているということ。自分自身を冷静に外側から見つめ ることが出来たとき、それまでとは違う新しい景色がぱーっと見えてきたりして、そのことが回復へと続く大きな一歩になっていくんだと思います。

-笑い飛ばすということは医療関係者にはできないことです。まさに当事者の間だからこそ生まれる「回復力」ですね。

はる 同じ症状を持つ人、あるいは摂食障害を抜け出した人に直接会うというのは、とてもパワフル なことだと思っています。もっとピアグループが身近にたくさんあって、気軽に参加できる社会になって欲しいです。摂食障害を発症した時、お医者さんにかか るのとはまた別の方法として、ピアグループとの交流も回復の手段になることを、広く伝えていけたらいいなと思います。

 

自助グループの私たちの声を聞けば、ご家族の不安も軽減すると思う


 あと当事者に働きかけるのも大事だけど、ご家族に正しい知識を持ってもらえたら家族の人たちがラクになり、ひいては当事者もラクになると思います。
書籍やネットから知識を得るのもいいですが、私たちのような自助グループの生の声にも触れていただきたいと思います。私たちの本音に触れれば、ご家族の方も「うちの子、どうなっちゃうんだろう」という不安が軽減すると思いますよ。

医療者が書いた専門書 には、母親が悪いって書いている本が多いような気がしますが、それを読む母親が「どうせまた、私が責められる内容なんでしょ」みたいになると、今度は親が苦しくなってしまう。
誰かを責めたり苦しめたりするのではなく、当事者も周囲の人たちも、もう少し肩の力を抜いてリラックスしながら楽しく情報を得られるといいですね。・・・って手前みそですが、まさに「Peerful」がそんな雑誌なんですけど(笑)

はる まだまだ摂食障害に対しては、暗い、怖いというイメージ、あるいは仰天ニュースに出てくる ようなセンセーショナルな印象を持っている人たちもいると思うんです。そのような世間のイメージが、イコール当事者の劣等感と結びついているのが現状。そこを変えていきたい。

確かに摂食障害は楽しいものではないけれど、そんなに恐れるものでもないよって。実際、ピアに集まってくる人もみんな本当に普通だ し、自然体でワイワイ話し合えている。ピアの活動や雑誌「Peerful」を通して、現場の私たちの自然な姿を伝えて、世間のイメージを変えていきたいと 思います。

-今、苦しんでいる人へのアドバイスを

 苦しみの真っ只中にいる時って、本当に余裕がなく追い詰められていると思います。人それぞれ背景が異なるので、一辺倒のアドバイスって難しいのですが、自助グループで様々なケースを知ることは、きっと参考になると思います。そして、自分がラクに なる選択をして欲しいと思います。「治るためにがんばろう」じゃなく、体とか心がラクになる方向を選んで、生き延びて欲しいと思います。

はる 自分が摂食障害の只中にいた時は、治った人の体験記を読んでも「治ったなんて書いてあるけど、きっと私とは違うんだ」などと、素直に「回復」というものを信じることが出来ませんでした。
だから、今苦しんでいる人たちも、自分が治ることを信じられないかも知れませんが、信じなくてもいいから「もしかしたら治るかも知れないな」ぐらいの希望は頭の片隅においてくれたらいいなと思います。