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ドクターに聞いてみよう!
今回は東京女子医科大学で摂食障害の臨床に携わりながら、一般社団法人日本摂食障害協会理事も務めていらっしゃる、鈴木眞理さんにお話をお伺いしました。

日本摂食障害協会は、今年6月2日に設立を発表。
株式会社ミュゼプラチナムさんとの業務提携や、8月初旬にはスポーツ・健康産業総合展示会「スポルテック2016」にもブース出展をなさるなど、活動をスタートしています。

今回は鈴木さんご自身の摂食障害に対する思いや、これらの事業が現在どんな状況でどこに向かって進んでいるのかをお聞きしました。

 

 

<日本摂食障害協会 業務内容>
 摂食障害患者様及び患者ご家族の支援
 摂食障害の啓発活動・予防活動
 摂食障害関係者に対する情報提供
 摂食障害治療者の育成支援
 公的専門治療機関の創設支援
 摂食障害に関する調査研究
 その他目的を達成するために必要な事業

2016/9/5取材 2016/11/4公開
取材・文 あかりプロジェクト いづ・みか

 

誰も診ないっていうし、興味から診始めた

いづ : 今日は摂食障害協会のことももちろんなのですが、鈴木先生がどんな思いで摂食障害に関わっていらっしゃるのか、という部分もぜひお聞きしてみたいと思っています。

鈴木 : 私は内科医です。心療内科の専門医は研修会を逃してしまって取れなかったんです。

いづ : 取りたいお気持ちはおありだったんですか?

鈴木 : いや、ないんです(笑)。取っておいたほうがいいかな?とは思ったけど、私は内科医で十分です。

いづ : じゃあ元々のご希望通りに…

鈴木 : はい、私はやっぱり身体を丁寧に診たいのです。
学生時代、茶道部と弓道部に入っていて、
茶道部の顧問が佐賀医科大学で病理の教授で赴任されました。卒業して2年間、病理学教室というところにいたんですが、手伝ってほしいということで助手になって、病理解剖して病気の原因を探ったり、副腎の研究をしていました。

たまたま聖路加病院の日野原先生が佐賀医大にいらっしゃって、出身地が山口県で同じで、病理をやるなら内科をやりなさいって言われたんですね。じゃあ内科研修医をやろうって思った時に、その頃のシステムでは卒業して2年以内でないと国から研修医の経済的援助が無く、自前で経済援助のある研修制度を持っていたのが東京女子医大でした。
私は内分泌病理をやっていたので、内分泌内科に入局して研修医をスタートして、脳のストレスホルモン研究にも取り組みました。

たとえばネズミを9つの部屋にそれぞれ入れて、奇数番号の部屋には電気ショックを与えます。シースルーの壁なので、偶数マスのネズミには隣の兄弟ネズミが飛び上がって苦しんでいるのが見える。両方ともストレスでご飯を食べなくなるんですが、奇数ネズミは電気ショックには慣れてしまってぎゃって飛び上がるけれど儀式的な感じになり、ご飯は食べるようになるんです。ところが見ているほうの偶数ネズミはずっと食べられない ままなんですよ、心理的ストレスのほうが重症です。

いづ・みか : へえ!面白い…

鈴木 : ね、面白いでしょ。いろんな物質を脳に入れてご飯を食べるか食べないか、行動が過活動になるかならないかとかを見ていく。
その頃は脳のいろんなことがわかり始めた時期で、アメリカから新しいホルモンを取り寄せたりして、新しい研究をする機会に恵まれて、卒業後6年で学位が取れました。その後、米国のソーク研究所に留学して、ノーベル賞を取った先生のもとで脳ホルモンの研究をして帰って来たんです。

東京女子医大は都会の大学病院ですから、摂食障害の患者さんはいっぱいいらっしゃるんですよ。精神科は敷居が高いようで内科に来るんですね。いろいろ検査をして診断がつくと精神科に紹介していました。ところが、追跡調査をすると受診が途絶えているんですね。これじゃ意味ないよねと思いながら渡米して、帰国しても同じ状況だった。女子医大ですから、女性患者さんを診療する使命を感じて、じゃあ診てみようかって思って。
だって誰も診ないって言うし、本人は精神科に行かないし、心療内科も少ないし、周囲の医者は治療が難しいっていうし、どれくらい難治なのかと、むしろ興味津々で診始めたのがスタートです。

いづ : それは何年ごろのことですか?

鈴木 : 1988年です。

いづ : 30年ぐらい前ですね。

みか : ちょうど私が大学に入った年だ。

鈴木 : ああ、そうなんですか。まだ患者さんもそんなに多くなくて、1980年代が日本にも摂食障害いるよねって言い出した頃です。実は江戸時代から患者さんはいたんだけれど。

みか : 私も中学の時からなので、だから40年ぐらい前。
病院も行ったけれどお医者さんがわかんない。

鈴木 : そうそう、そういう時代なの。ましてや治療なんて全然わかんないし、誰も教えてくれないし、学校で異常心理学の時にちらっと名前は出たけど、精神科の講義でも出てこなかったし、結局医者も知らない病気だったんですよね。
当時有名だった東邦大学の筒井末春先生、社会保険埼玉中央病院の鈴木裕也先生の外来を見学させていただくなど、私も知らないから勉強しました。

 

内科は患者さんの了解の上で治療する

鈴木 : 特殊な治療をしている施設もありました。治療施設は限られており、患者さんは実は循環していました。
患者さんからこれまで行った病院の治療内容を聞いたものですが、患者さんが嫌がっており、時には逃げて来ていました。
私は内科なので精神科のことはわからないにしても、内科一般外来の3割は心療内科関連の患者さんなんです。高血圧もそう、例えば仕事を変わったりお嫁さんとけんかをしたり、旦那が病気になったりしたら血圧が上がってるし、喘息がひどくなった患者さんに「何かありました?」って聞いたらストレスの多い出来事が出てきます。甲状腺の病気であるバセドウ病もそうです。
素因はあるけれど発病と再発にはストレスイベントが関係しています。

内科医はストレス病に慣れているのでそのノリで診始めたんですよ。治療拒否だって内科でもよくあるんです。認知症のおじいちゃんが肺炎になって絶対に入院したくなくて「帰る!」ってなったら、じゃあ往診で点滴に行くかとか、ちょっとダマして一泊させるとか工夫します。

摂食障害でも治療拒否は症状ですが、若いからまだ可愛いじゃないですか。
内科っていうのは精神科と違って、強制的に入院させたり体を拘束したりできないので本人の了解が必要です。了解したことを治療させていただくんです。

みか : 了解をしてもらうって大変じゃないかって思うんですけど。精神科の先生が拘束しちゃうところを了解を取りつけるっていうのは…

鈴木 : それは簡単。だって自分にメリットがあることしか了解しないので、本人にメリットがあることを探せばいいわけだから。

いづ : 例えばどんなふうに?

鈴木 : 絶対に入院しないって人には、「いいよ、そのかわり死んじゃうと困るし、ご縁だから明日も絶対に来てね」って。 そしたら「ラッキー、外来ならいいか」って思うから次の日も来るわけですね。検査して「こんなに悪くなっている」ってデータを見せて「点滴一本ぐらいしないと、もっと悪くなったら緊急入院です。他の病院に救急入院になったら問答無用で治療されてもう大変よ」って言えば来ますよね。
数日お付き合いしていれば、 「この病院は無理やり入院させないし、嘘をついたりしない」ってわかってきますよね。データがどんどん悪くなっていることを知れば、観念しますよね。

みか : 確かに救急入院は嫌かもしれないですね。

鈴木 : 入院か外来か、この病院か、飛び込みの救急病院か、どちらがメリットかの話ですよね。
さらに、「危険域を脱したらすぐ退院です。病室はとても混んでいるので長く入院したくてもできませんからね」って。

 

症状は必要悪。いかに身体に触り障りなく、というアプローチ

いづ : 今の実際の治療アプローチはどんなものですか?まず患者さんがいらしたら…

鈴木 : 精神科の西園マーハ文先生、臨床心理士の小原千郷先生と作った『診る読むクリニック』っ ていうDVD付の本(リンク)を読んでいただければアプローチもおわかりいただけるかと。
診察に来るのが怖い人が多いので、「来なくていいからこれ見て ね」って言えるような本です。

体を守るために、内科的な合併症や骨粗鬆症などの後遺症を明確に数値で評価しています。体重と労作制限の基準は厚労省で決 っています。標準体重の何パーセント以下だと入院勧告やいろいろな制限があるけれど、ランクが上がれば制限が解けるのであれば1ランクぐらいは上げても いいかな?って思えるような仕組みになっています。

いづ : 身体からのアプローチですね。その際には鈴木先生とのやり取りの中で、心の部分も満足していく仕組みなのでしょうか。

鈴木 : 身体治療の目的は「救命、合併症と後遺症の予防、そして、脳機能を改善して心理的なアプローチが奏功する状態を作ること」です。
緊急入院や労作制限の話ばかりで診療時間をつかうのではなく、患者さんの感じていること、悩んでいることなどに取り組むために、体が危険な状態を脱することは有意義です。

では、体重の話ばかりで心理的は変化が起こりうるのか、というご質問ですよね。「健康な時と同じように食べることが苦手になって、できないことが多い」ことを理解したうえで、叱責したり、面倒くさがったり、嫌がったりしていないことが伝わること、次に、患者さんの体に起きていることを理論的に説明して、どうすれば改善できるかをお教えすることで、それができるかできないかは別として、特別な心理的アプローチをするまでも なく、医療者への信頼、あるいは、安心は得られると感じています。
患者さんにどう寄り添えるかは次のステップだと思います。

いづ : 次のステップのいわゆる心療内科とか精神科のアプローチはどんなふうになさるんですか?

鈴木 : 2段階目までは内科外来でします。心理的アプローチですよね。
たとえば「やせのメリットは何ですか」とお聞きして「安心できるから」とおっしゃる。それを「最大のメリット、やせのマジック」と共有します。「あなたも周囲も困っている変わった症状はあなたが悪いわけではなく、病気の症状」と病気を外在化します。

さらに、治したい自分と病気のままでいたい自分がいることを確認します。過食嘔吐も下剤もすぐに止めろとは言わないんです。止めたほうがいいのは本人が一番知っているし、すぐに止められないから病気なのですから。
一日の日課を書いてもらってここちょっと減らせそうと作戦を練ったり、嘔吐後の脱水や電解質異常の予防策を教えて検査データを比べたり、医療用の下剤を増やして市販の下剤量を少しずつ減らす計画を立てたりして、科学的なアプローチをします。

そうすると本人の自発的な変化も見られ、2段目の寄り添いも可能だと思います。3段階目は認知行動療法や対人関係療法などの特別な心理療法や、コーピングスキルの向上ですね。これは臨床心理士や精神科とのチーム医療ですね。

いづ : 摂食障害は心療内科とか精神科で扱う病気というイメージがあるから、身体からのアプローチっていうのは今初めて具体的にお聞きして新鮮でした。

鈴木 : そうですか、こういう内科医は多いと思います。
別に摂食障害を診てるって言わなくても。嘔吐や下剤乱用で腎不全になりそうな患者さんに、「3リットル吐くなら3リットル補充して」と淡々とアドバイスする腎臓専門医とか。嘔吐は病気とみなして対処を教えるっていう。

みか : わかりやすいですね。

鈴木 : 私も病気は必要だからやってるんだろうって思ってるんですよ。

いづ : それは嬉しい。それはすごくしっくりくるんです。必要なんです。

鈴木 : 必要悪なんですよね。止められるもんなら止めているか減らしているはずなんだから、今はニーズがあるからしょうがないんですよね。
それをいかに身体に障りがないようにするかをお手伝いするアプローチなんです。内科ですから。

みか : そういうアプローチを続けていくと過食が減ったり無くなっていく…

鈴木 : もちろん。症状を責められている間は患者さんの協力は得られませんが、必要悪だと認めてもらえると協力的なスタンスが出てきますよね。ここまでがんばって吐きませんでしたとか。

 

協会は本来、患者家族や当事者が運営するべき

いづ : 摂食障害協会の話もお伺いしたいと思います。
特に背景というか、鈴木先生ご自身の思いなどをお聞かせください。

鈴木 : 欧米と同じように、摂食障害は、医師、臨床心理士、栄養士、キャリアカウンセラー、在宅医療、福祉などがかかわって治療して、社会復帰を支援しなければなりません。統合失調症には全部揃っているのに摂食障害にはないってそれは手落ちです。

摂食障害に関する医学会としての日本摂食障害学会がありますが20周年という若い学会で、当事者や家族の支援体制は希薄です。そこで、学会員が中心と なって、2010年に「摂食障害センター設立準備委員会」を発足させました。署名活動、講演会、マスコミへのアピール、厚生労働省や国会議員などへ陳情活動を開始し、多くの方々のご協力を得て活動が拡がり、2013年には厚生労働省が摂食障害の治療環境の改善する調査研究班を立ち上げました。
そして国立精神神経
医療研究センターに、ガイドラインの作成や研究を行う摂食障害全国基幹センターを設置しました。2015年より摂食障害治療支援センターが設置されて、摂食障害に関する相談業務を開始していますが、全国でたった3つの大学病院(九州、浜松医科、東北)です。また、治療者不足も深刻です。さらに、地域生活に対する援助は圧倒的に不足しています。

そうした経緯を踏まえて、準備委員会は「一般社団法人日本摂食障害協会」へと移行し、法人化に至りました。
協会はイギリスにもアメリカにもあります。学会と協会の違いを糖尿病を例にすると、研究や臨床データを発表するのは学会、大地震の時にどこでインシュリンが手に入るかを教えるという患者へのサービスをするのは協会という感じです。
日本摂食障害協会は関東と関西に支部をおき、理事7名を中心に、特別顧問3名、参与13名、研究員2名で作られた組織で す。摂食障害の治療に長年携わってきた心療内科、内科、精神科医、臨床心理士、管理栄養士など専門家からなります。

拒食症や過食症などの摂食障害患者だけでなく、やせ過ぎという問題を抱える日本の若年女性とご家族、摂食障害ややせ過ぎの弊害を合併しやすい女子アス リート、トレーナー、管理栄養士、養護教諭など学校関係者も対象に、食と健康に関する正しい医学情報を提供して、サポートしています。
さらに、当事者やご家族の問い合わせへの対応、摂食障害の啓発のために協会独自の、あるいは、他団体との講演会、新聞やトレーナーなどを対象にした各種雑誌への寄稿、調査研 究と学会発表、患者グループや家族会の支援と連携も行っていきます。

今後は摂食障害の啓発冊子制作や、病院のリスト化、メールや電話での心理士の相談、栄養士や学校関係者の研修を広げるべく、活動をしていきたいと思っています。

外国は当事者や家族が協会の運営主力です。日本では、「うちの娘は拒食症なんです!」ってまだ言えないですよね。「うちの子糖尿病です」は言えるかもしれないんですけど。私たちが取りあえず土台を作ろうっていう流れです。

いづ : お医者さんたちが立ち上げるっていう点で、摂食障害の回復にあたって対等性みたいなものがすごく大事なように思っていて

鈴木 : 対等性を重要視されていることは知っています。

いづ : あなたも私も同じように力がある同じ人間という。で、医者と患者という関係性もあるし、社会的な力としてもお医者さんってオーソライズされて権力を持っている存在ですよね。

鈴木 : そうですね、やっぱり強いですよね。

いづ : まあ当事者はいろんな人がいるけど、それをいかに対等に力を合わせてやっていくかっていうところにたくさんの壁がありそうな気がしているのですが。

鈴木 : あります。欧米のように、当事者、特に回復して専門職になられた当事者やご家族が協会を運営するべきだと思います。まだまだ日本はこの病気に認知が低いし、社会的支援がないから、とりあえず私たちが肩代わりしていると私は思っています。私は学会で活動する立場で十分です。

いづ : それは鈴木先生の個人的な思いですか?

鈴木 : いや、みんなそう思っています。当事者やご家族、頑張ってと思っています。

 

家族や当事者に力を持ってほしい

鈴木 : 「あれはストレス疾患で、がんばってる人がなって、なりたくてやってるんじゃないよね、大変だね、鬱と同じだね」って認知があがれば、目が優しくなり手が入りお金も出してくれるようになって、多分当事者と家族が協会を運営できると思うんですね。
私はトレーナーとか学校とか企業とか、女性の健康にちょっとでも関心がある領域に摂食障害を広めて、支援が得られるようにするための露払いをしているつもりです。

いづ : これを記事にして多くの人に届けることで間接的ではありますけど、相互理解に少しでも近づくといいなあと…。

鈴木 : 生野先生(※協会理事長の生野照子さん)が、今のところは、協会、家族ネットワーク、当事者の3本柱とおっしゃっているのは、それはみなさんのお気持ちを考えてなんだと思います。
今育っている最中なので取り込んでしまうと自主性も育たないと考えています。自助グループの人たちは、私たち治療者は治したいと思ってるって思いこんでいて、そこに取り込まれることが嫌なんだと私は想像してるんですよ。
家族や当事者が理事とかに入って活動されるまで力を持って欲しいと思っています。

いづ : 力ってどんな力なんですかね…

鈴木 : 運営力とかお金を集めるとかリーダーシップとか。
例えば学会では臨床心理士さんも栄養士さんも保健の先生も理事に入られて意見も述べられて活動もされていますよね。そういう風な形になったらいいなと思っています。それはアメリカやイギリスと同じ。

みか : 当事者も入ってっていうことですか。

鈴木 : 当事者の方もそのままでもよろしいですけど、やっぱり栄養士さんになられた当事者の方とか、心理士になられた当事者の方とかそういう方も入って活動や運営に携わられるといいなと思ってます。

いづ : 今はまだ力がないように見えますか?

鈴木 : 協会を運営できるとは思えないのです。例えば、私どもが自己資金で47都道府県の精神保健センターに連絡をとって情報を集めて、さらに、インターネットで探して、家族会のリストを作成しましたが、本来は家族の方々がされると良いと思います。

いづ : リストいただきました。すごく役に立っています。

鈴木 : クレームではなく、日本ではやっとご家族や当事者が動き始めたので、待たなければいけないかなっていう気持ちなんです。

 

多様性を認める当事者、医療者が増えないと連携は難しい

鈴木 : 自助グループはもっと大変だろうなあと思うのはそれぞれの自主性とポリシーがあるし、集まる患者さんの層も違うと思うので、まとまるのもすごく難しいと思います。
だから連絡会などで場所をお貸ししたりしながら、どういうふうにまとまってどんなお力になっていくのかなっていうのはこれからじゃないかなと思っています。
だから今の時期に協会に入って下さいとはとても言えないし、まずはみなさんそれぞれの確立のほうが先かなと見ています。

いづ : 力とおっしゃった中に、自団体だけじゃなくてみんなで協力するよっていうネットワーク的なことが一つ入っているんですね。

鈴木 : おっしゃる通りです。医療機関で嫌な思いをしたことから医者を敵対視するグループもあると思います。医療者も当事者も多様性を認めるという成熟の時期が来たらと思います。

みか : それこそ相互理解の上にみたいな…

鈴木 : 家族は治って欲しいと思っているし、それに同調する医療者がいます。
また一方で、痩せていても自分で満足して 社会生活をして病院に来なければ、それも本人の人生だと尊重しようと思っている医療者もいます。
病院に来なければ治療者―患者関係はないわけです。
そういうラインがあることがわからないと3者で協会という形は無理ですね。

常に医療者は治してあげなければならない、患者は治るべきだ、治るというのは体重が戻るとか嘔吐が無くなることを目指すんだ、となったら多分共通認識にはならないと私は思っています。

いづ : お気持ちが聞けてすごくうれしいです。

鈴木 : 極端に言えば、20キロ台の人たちがこれで生きていくんだ!というグループがあってもおかしくないということです。
「死なないでね」「来院してください」とは言うけれど、病院外でお会いした時は医者と患者関係ではないのであまり余計なことは言えないなと思ってい ます。東京女子医大に来られた場合は今すぐ点滴を!となりますけど。そういうことよね。

いづ : またお医者さんの中にも、いや20キロのグループなんてとんでもない!って方もいらっしゃるでしょうし。

鈴木 : そうですね。

いづ : そして自助グループにもいろいろな考え方がありますしね。本当にまとまるのは時間のかかるところですよね。

鈴木 : 他の病気の協会とは違うと思いますね。目的が一個にならないってところが。
糖尿病はほったらかしておいたら大変なことになるじゃない。だからみんな同じ方向を向いていますよね。

みか : 摂食障害に関しては医師によっても当事者によっても目標が違うから…難しいですね、集約するのは。
そうなるとみんながお互いの立場を認めながらどこかで上手く繋がっていくようなイメージになるのかな。

鈴木 : 多分医者側のほうでも多様性を認める人が主流にならないと難しいでしょう。
患者さんのほうでも医者に敵対心を持つ人の数が少し減らないと難しいし、だから成熟を待たないといけないでしょう。

いづ : 個々人の成熟ということもあるかもしれませんが、全体としての成熟みたいなものがあるような気がしますね。

鈴木 : そうそう。

 

世間の後押しがあって成熟すると思う

鈴木 : 一般社会で、摂食障害に鬱と同じぐらいの市民権を持たせるというのが、私は今の仕事だと思っています。
「わざと痩せてるんじゃない」とか「わざと吐くんじゃない」ぐらいは浸透させないといけないと思います。孤立の中では成熟できない、世間 の後押しがあって成熟すると私は思っています。

いづ : ではこの流れで先日協会としてブース出展なさった、スポルテックとか協賛企業のミュゼさんのことや、その辺のお話もお聞きしたいと思います。

鈴木 : ますミュゼさんですが脱毛の会社で痩身はないのですが、ダイエットの会社だと誤解されています。もしこれが石鹸の会社だったらみんなあんまり違和感を持たれないのではないでしょうか。

いづ : そうですね、石鹸だったら思わないかな。

鈴木 : ほらそうでしょ、食品の会社は?

いづ : 食品はそんなにハテナじゃないかな…。

鈴木 : 身体に関わるってことでかなり水面下でたたかれたんですけど、何でここかと言うとね、協会の活動資金を支援してくださる第1社目がここだったんですよ。この会社は100万人の女性会員を持っているので利益を女性に還元する社長の方針で、ピンクリボン運動とか女性の健康に資金提供をされています。
で、次のスポンサー探しのためにスポルテックに出店したわけです。ミュゼさんとは素晴らしい共同研究ができました。摂食障害に関する意識調査をさせていただきましたが、なんと3日で1,000人の女性社員さんにアンケートを取れたんですよ。

いづ・みか : すごい!

鈴木 : 会員さんは3日で4,000人取れたんですよ。アンケート結果は、東京都とか厚労省へのアピールになります。ミュゼの社員さんたちも本当に真面目で敬意を払いたいと思います。

いづ : 私たちの感覚では、敬意を払っていないということでは決してなく、摂食障害になった根底にはジェンダーの問題が少なからずあったと思うので、それを助長と言ったら強いかもしれませんが女性はきれいであるのがいいという価値観に基づく商品を出していらっしゃる企業さんということで、会社の良し悪しという意味ではなく、摂食障害の協会があえてそこと?という部分であれっ?って思ったのは正直なところなんです。

鈴木 : もし本当にそういうところだとしたら、私は敢えて切り込みたいのですが。本丸を崩したらどうかしら(笑)

いづ : (笑) 確かに、まあそうかもしれませんね。それこそ痩身の会社とかね。

 

<垣根を越えると、いろんなコラボができる>

いづ : スポルテックさんにブース出展なさった時には、一般の方からどんな反応があったかもぜひ教えてください。

鈴木 : 商品がないでしょ、かなり特殊なブースでした。
だから立ち止まる人もいましたし、「あ、拒食症かあ。俺は食い過ぎだぜ」みたいに通り過ぎる人ももちろんいました。だけど面白いことに複数の摂食障害経験者の栄養士さんが立ち止まってくださいました。何故かカミングア ウトしていく(笑)。

いづ : 告白部屋みたいになっていたんですね(笑)

鈴木 : そうそうそんな感じ(笑)。
それから、摂食障害というよりは痩せすぎ女性の健康障害をメインにしていたので、 多彩な業種の会社から講演依頼がありました。
食品会社さんからうちで何かできることがありますか?とか。食品会社さんには、拒食の方はカロリー計算が厳密で、油と炭水化物が控えめでたんぱく質や亜鉛などが摂取できる食品が勧められるなどの情報をお伝えしたりしました。

みか : 社会に働きかけていく感じがすごくしますね。

鈴木 : 運動靴を履いて全部のブースを回ったんです。
食品の提供はしますよ、イベントする時にはお声がけしてくださいとか、どの会社もみんなとっても親切にしてくださって。
これは私が作った冊子で患者さんにもお渡ししていますが、拒食の人にも受け入れられやすそうな食品のリストです。プルーンとかスポーツ用塩羊羹とか、パラチノースのゼリーとか、優れものがたくさんあってね。
そんな感じで協力してくださる会社を10社ぐらい確保できて。垣根を超えるといろんなコラボができるので楽しかったです。

いづ : 今そんな風にして企業さんとかいろんなところと垣根を超えて繋がるということをなさっていて、今後は何か具体的な計画はありますか?

鈴木 : フェスティバルを摂食障害ウィークにやるというのが一番大きなイベントで、あとは企業さんと一緒に一般の方々や地域のトレーナーに、女性の健康や摂食障害に関する正しい情報提供をするのが当面の計画です。
ここ一年は本当に一般の人のこの病気に対するあたたかい目と手を得るための活動をしたいと思っています。
あとは資金を得て常勤の心理士さんを1人置いて相談活動を始めたい。そのためにはどんな企業さんとも協力していきたい。医者がお願いに行くほうが先方の本気度も高まるので極力自分が足を運ぶようにしています。

 

変に擦り切れなくても、世間ずれしなくてもいい

いづ : 最後にメッセージをお願いします。

鈴木 : 協会のメッセージと同じです。食べる喜びを。これですね。
怖いけど、「でもこれなら食べられる」「これなら楽しく食べられる」でいいと思うんです。
だってベジタリアンもいるし、特定のものしか食べない人だっているし、それでいいじゃないですか。その人にとっての食べる喜びをぜひ見つけてほしいです。あと人とのコミュニケーションよね。この病気のベースは人間関係に集約されます。

いづ : ベースは自分が劣っているという感じがあり、それが結果的に人間関係の上手くいかなさにも繋がったりいろんなことに影響してという感じでした。

鈴木 : 劣ってる人は実は客観的にはあまりいないですよね。

いづ : そうなんです。ただの思い込みというか根拠がないんです。

鈴木 : 理想が高いんですよね。

いづ : 劣ってるって思ってるからこそ理想が高い、っていう感じがするんです。

鈴木 : みなさんよく自信がないっておっしゃって…。
それは何かができたから払拭される劣等感ではなさそうですね。

いづ : そうですね、やってもやっても満たされないという。

鈴木 : 自己効力感とはまた別のものですね。

いづ : もっと土台のもののような、存在価値みたいな。

鈴木 : 存在価値がないといけない、私は人より劣っちゃいけない、というのがベースにありそうですね。どうですか?

いづ : すべての人と同じように自分にも存在価値があるということを感じられなかったんです。そのままで存在価値があったのに。

鈴木 : 誰かが劣ってないと順番がつかないですね。私は頑張っているのに、あの人は真面目に仕事しないと他人を批判する患者さんは多いです。がんばらない人がいるからあなたが一番になるのよ、だからやらない人に感謝感謝っていつも患者さんに言うんですよ。

いづ : 得意不得意、でこぼこがあって、そういうのがぜーんぶあってOKという、言ってみれば当たり前のことなんですけど、そこに気付くまでにものすごく時間がかかって。
それに気づかせてくれたのが摂食障害。

鈴木 : この病気には必然性があるんでしょうね、私は全部治そうとは思ってないです。
治せないです私には、その人の生き方なので。そこまで差し出がましいことはできないです。

いづ : 私、治せないって言ってくださるお医者さんのほうが信用できるんですよね。

鈴木 : ただし、救命にはがんばります。でも死んじゃう人もやっぱりいます。あとは、合併症の治療は最大限は診ます、病院に来たらほっとする場を提供できます。
みんなで力を合わせて精一杯やってますから。これが本音ですよね。

みか : そういう先生のほうがホッとできるかも。その時の状態で身体を守ってくださるみたいな。身体を守りたいって気持ちはきっとみんなあると思うんで。

鈴木 : ありますね。びっくりしちゃうけど食事は取れないのにサプリ飲んでますとか、「いやいやサプリはメインあってこそのサプリだから」って説明するんだけど、身体のことみんな気遣ってるんですよね。

みか : みんな死にたいわけじゃないもんね。

鈴木 : そうそう、死にたいわけじゃない、生きたいですよね。
私は死にたいって言われたら、死にたいくらいに辛いのねって翻訳してあげるんだけど。
この病気のおかげで生き延びてますよね、だから取り上げると死んじゃいますよね。
その怖さはわかっているつもりです。
だけどまあ、程度もんですよね、命にさわらない程度で止めてねっていう、そこを数字で示すのが仕事だと思っています。

いづ : 今日はお話をお聞きできてすっごくうれしかったです。

鈴木 : ありがとうございます。みかさんはご一緒に活動されているんですよね。

みか : はい、私は京都であかりトークをやっています。
本職は福祉職なので、医療の後に生活の支援とか就労の支援とか、絶対にいるなあと思っていてそういう継続性のところは考えていきたいなあと思っているんだけど。

鈴木 : 絶対に必要ですよね、一番大事なところ、社会に出ることが最後の課題ですね。

みか : そうですね、社会に出て仕事をすることでつく自信みたいなものもあると思うので。

鈴木 : それもありますね。
ところで、私は家事手伝いも自立だと思います。
私もう60をとうに超えているので、私の時代では半分は家事手伝いでした。
今は、ほとんどの親が社会で仕事して一人前、自活してほしいって言うけど、私はすごく違和感があるんですよ。外でいろんな 厳しい労働条件やハラスメントが蔓延している中で、それを上手にかわしながら働くことに向いてる人が果たして半分いるかなって。半分はお金のためとか生活のために我慢して働く人はいるけれど、苦手な人は家事手伝い、親戚の家業手伝い、ボランティアとか半分ぐらいいるんじゃないかって思ってるんですよ。適性として。

いづ : それはいい悪いではなく適性ってことですよね。

鈴木 : 適性として。

いづ : 私も賛成です。世の中全部がそういう考えになってくれたらどんなにいいやろうって。そしたら摂食障害もなくなるかもしれない。

鈴木 : 少し減るよね。9月の私たちの家族会のテーマは「自立」なんですよ。
お母さんたちは自活できることが自立って言うんですよ。東京で女が働いて自活って無理ですよ、それでいて何でお母さんたちが自活って言うのか不思議なんですけど、それで私、女を磨いていいダンナ見つけたほうが早いですよって、お母さんたちに言うんですよ(笑)。

いづ・みか : あはは(笑)

鈴木 : 半分冗談半分本気で。女が一生涯自活できる仕事ってそんなに無いと思うんですよ。

みか : 大変ですよね。

鈴木 : おわかりですよね。リストラの風にあい、ね、途中で資格を取り直し、いろいろ大変ですよ。

みか : 私も働いていますけど、夫がいるから生活の基盤はあるので、こう仕事はやりがいのためみたいな。

鈴木 : ちょっと気楽でしょ。なんか大変なことがあっても、まぁいっかあって思えるよね。

みか : ちょっと楽しんでやれたりとかもするし。

鈴木 : それができるならいいと思うんですよね。変に擦り切れなくても、世間ずれしなくてもいいですよね。

いづ : 私もそう思います。

みか : のんびりできる仕事があってもいいですよね。家と職業との中間みたいな、もうちょっとこう摂食障害の人も利用できるようなシステムができていくといいなあと思って。

鈴木 : 主婦が好きな人も増えていいと思うし、家をしっかり守って、地区のお手伝いとか学校の行事とかをがんばって、分担すればいいと思うんですよね。
みんながみんな働かなくてもいいと思うんですよね。

みか : 働きたい人もいれば、家が好きな人もいるし。

鈴木 : それがメッセージになればいいなあと思います。

いづ・みか : ありがとうございました。

 

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鈴木眞理さんプロフィール

鈴木 眞理(すずき まり)

・政策研究大学院大学 保健管理センター 教授
・東京女子医科大学附属女性生涯健康センター 内科
・日本摂食障害学会 副理事長
・一般社団法人日本摂食障害協会 理事
・医学博士

山口県防府市出身。
1979年、長崎大学医学部卒業後、佐賀医科大学病理学教室を経て、東京女子医科大学内分泌内科研修医。1985年から2年間、米国ソーク研究所神経内分泌部門に留学。
2002年より現職。
内科専門医、内分泌内科専門医、産業医で、摂食障害の治療と病態の研究に従事。EATファミリー サポートの会という家族会を主催し、厚生労働省の研究班でも活動。法務省著書には「乙女心と拒食症」(インターメディカル)、「ダイエット障害」(少年写真新聞社)、「Primary care note 摂食障害」(日本医事新報社)。