群馬県赤城村に位置する赤城高原ホスピタルは、家族の相談からアルコール症本人の治療、リハビリ、付随する家族問題まで広く総合的に対応する開放型アルコール症専門病院です。

摂食障害に関しても、家族向けプログラムや自助グループなど幅広い視点で対応している日本では数少ない病院の一つ。あかりプロジェクトいづも、病気真っ只中の苦しい時期にお世話になりました。

今回は院長の竹村さんに、摂食障害に関わることになった経緯や摂食障害に対するお考え、治療の方針などをお聞きしました。

(2010/2/13 取材・文 あかりプロジェクト いづ)

 

薬物もアルコールも摂食障害も根本は同じ

-この病院はアルコール症の専門病院ですが、どういった経緯で摂食障害にも対応することになったのでしょうか。先生のこれまでの摂食障害との関わりについて教えてください。

私は元々の関心が 嗜癖(しへき)問題全般だったのですが、当時、国の病床制限の関係でアルコール症専門として病院を立ち上げました。今ではアルコール・薬物依存症専門病院になっています。薬物依存もアルコール依存も、根本は同じなんですね。

そこに摂食障害が加わってきたのは何故かと言うと、若い女性のアルコール依存症の方は、ほとんどが摂食障害を合併しているんです。20代以下のアルコール依存症で入院を要するの方の7割が摂食障害を合併している。そして大抵は、摂食障害が先に発症しているんですね。

ここはアルコール・薬物問題を家族の問題として捉え家族全体を治療対象としている施設です。ところが、酒害家庭で育った女性は、思春期に高い確率で摂食障害を発症します。アルコール依存や薬物依存も併発している場合の摂食障害の治療先や、家族の問題も総合的に捉えて治療する施設があまりないこと、 そもそも摂食障害を治療する施設自体が日本に非常に少なかったことから、必然的に摂食障害にも関わらざるを得なくなってきたという経緯があります。

摂食障害というのは、手術や安静でよくなる病気ではありませんし、投薬治療も効果がいまひとつです。それ以外の総合的な治療技術を使わないと上手く行かないんです。その一つが、「家族の問題」という視点ですね。

原因は簡単には言い切れません

-アルコールの問題に取り組んでいると、必然的に摂食障害にも取り組まざるを得なくなったということですね。アルコールも摂食障害も、どこかでつながりがあるのですね。
ところで、「家族の問題」という言葉が出ましたが、摂食障害の原因はいったいなんなのでしょうか。

それは、いろんなものですね。簡単には言えません。一つじゃないんです。
大きな原因として考えられることの一つは、社会の女性の体型に対する流行ですね。ダイエットの習慣がないところでは摂食障害はありません。

例えば、1985年まで電力もなかった太平洋の小島、フィジー島に1995年にテレビ放送が始まって、イギリス、ニュージーランド、アメリカの TVドラマが見られるようになって以来、摂食障害患者が急増したという報告があります。フィジーでは、これまで伝統的に男女ともがっちりした筋肉質の体が 好まれていたにも関わらず、テレビ放送が始まって3年後の調査では、十代の女性たちが、ダイエットに関心を持ち出し、約4分の3の少女が自分を太り過ぎだ と感じ、 15%のティーンエイジャーが体重制限のために嘔吐をしたことがあると答えたということなんですね。

-個人の気質は関係ありますか?

あるでしょうね。あるでしょうが、あまりはっきりしませんね。
お母さんから娘へという世代連鎖という面もありますしね。

摂食障害にもいろいろあります。症状にもアノレキシア(拒食)とブリミア(過食)がありますし、重症度も軽度から重度までいろいろあります。それ らをすべていっしょくたに考えようとすると、混乱する可能性がありますね。原因を簡単には言い切れないのは、症状自体が人によって様々という面もあると思います。

まずはご本人の助かりたいと思う気持ちと手を組みます

-なるほど…原因をひとくくりにできないのは、症状自体が多様だからということもあるのですね…。
この病院での治療方法や治療方針はどのようなものですか。

強制入院はほとんどなく、ご本人の希望を重視した任意入院が原則です。
摂食障害が重症であったり、あるいは摂食障害だけでなくいろんな問題が併発している場合、自分が助かりたいと思っているのか死にたいと思っているのかよく分からなくなっている方がおられます。助かりたいのだけれど、もう無理だと絶望的になっていたり、よくわからなくなっていたり。

ですから、まずは助かりたいと思う気持ちと手を組んで、治療したいというご本人のモチベーションを引き出すことからです。そういった意味で、任意入院が原則なのですね。そして、危険な方向へ走らないように予防していくことから始める。あたたかく迎えて、治療スタッフとの信頼感を確立するという、治療の前の準備を重視しています。その上で、治療プログラムに入ります。治療への希望をまだ持てない方や自傷行為が頻繁にある方に対して無理やり治療に持ち込んでも、なかなかうまくいかないですから。

ここには、摂食障害の中でも精神的な面で重症な方、言ってみれば危なっかしい方が主にいらっしゃいますから、安全な場所・空間を確保するのがすごく大切なことになってきます。家庭で居場所が無い方、これまでにトラウマを体験している方、医療機関で薬漬けになっている方へ安全な場所を確保して、ちゃんと治療すれば良くなるという事を体験的に知って頂くことが大切だと思います。

―助かりたいほうの気持ちと手をつないで、少しずつ信頼関係や安心感を築いていかれるのですね。実際の治療プログラムはどのようなものでしょうか。

治療プログラムは、認知・行動療法、個人精神療法、そして特にここで重視しているのは集団精神療法、教育的なプログラム、自助グループなどです。 基本的には嗜癖に関するプログラムに沿った治療です。それから、先ほども触れましたが家族療法に重点をおいているのがここの特徴です。家族全員を治療するという視点ですね。ご本人よりもご家族の方の治療がしやすそうであれば、ご家族を先に治療したり、あるいは並行して治療したりと、治療しやすいところから始めます。

薬物療法や栄養管理はしない訳ではありませんが、重点ではありません。
ですから、拒食や痩せが主たる症状で身体的な治療が必要な方の生命維持などはあまり得意ではありませんので、身体的治療を中心とした病院に紹介することもあります。ここで診ているのはほとんどが過食の方です。

摂食障害は嗜癖の性質を持っています

-嗜癖に沿ったプログラムとおっしゃいましたが、摂食障害は嗜癖なのでしょうか。

嗜癖で一番分かりやすいのは、アルコール・薬物問題など、物質使用障害で、その次にはギャンブル問題ですね。そして女性の物質使用障害患者は摂食障害を合併していることが多い。逆に摂食障害患者は、嗜癖問題を合併している事が多い。つまり摂食障害は、嗜癖に類似した特質を持っているんですね。ですから嗜癖の治療プログラムが応用できるところがかなり多いのです。

-摂食障害を嗜癖問題から捉える視点というのは医療者の世界では主流なのでしょうか

世界的に見ると、主流ではないでしょうね。
主流ということで言えば、認知行動療法というのが主流なのかなと思います。
それから、重症の摂食障害の方にはボーダーライン(境界性パーソナリティ障害)の方も結構多いですが、そうするとまた違う視点からの治療法が必要になってくるという側面もありますね。

-わたし自身は、いろいろな治療を受けながら、結局最後のところは自分の中の回復力で回復に向かった感じがあるのですが…

嗜癖というのは基本的に自分で治すものです。さあ治してくださいといって本人が治療者任せにして治るものではありません。ただ、自分だけの努力ではやはり難しい場合もあります。特に重症のケースでは、専門家の意見を聞きながら、ある程度の治療プログラムに沿いながら進めていかないと上手くいかない場合が多いと思います。

治療において、薬はあくまで補助的なものです

―なるほど…。基本的には自分で治すものだけれど、特に重症の場合はそこに専門家の助言や治療のプログラムが必要ということですね。先生は、薬の処方についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。

当院での初期治療の目標の一つは、処方薬依存を減らすことです。
ほかの病院からいらっしゃる方の中には十種類以上も向精神薬が処方されている場合 もあります。ベンゾジアピン系薬剤は、現在、精神安定剤、睡眠剤の中心的な処方薬で、短期の使用では比較的安全ですが、長期に使用すると依存乱用の危険があります。しかし、そういった薬を多種大量に処方されている方、そしてそれを何年も飲んでいるような方が非常に多いんですね。
当院では処方薬をなるべく減らして、健康な生活習慣を取り戻すことを大切にしています。

―それでもやはり、薬を処方する場合もあると思うのですが、それはどんな場合ですか?

そうですね、使う時は使います。多くは、使いたいというご本人の希望があった場合で、こちらも使ったほうがいいと判断した場合です。抑うつの場合や、躁鬱病などの合併症がある時にも使いますね。

一番よく使うのはSSRIという抗うつ薬です。ブリミア(過食)に関してはある程度の効果があるということはわかっていますが、副作用もありますし、なしで回復する方も結構いらっしゃるので、使わずに回復するのが一番の理想です。

服薬したから治るということではなくて、補助的な役割ですね。過食が少し減るとか、抑うつが少し減るといった程度です。精神療法や環境的な配慮が必要で、そちらのほうがむしろ重要です。投薬は本質的な治療ではないということですね。
この病院でも、ほとんど、あるいはまったく薬を飲んでいない方は結構いらっしゃいます。

SSRIなどの薬を飲んでいると、服用をやめたときにいらいらしたり不安定になったりといった離脱症状が起こります。そうすると、「やっぱり効いていたんだ」と思いがちですが、離脱症状は徐々に服薬を減らしていけば起こらないんですね。それを急にやめるから離脱症状が出て、患者さんやご家族は、 やっぱり薬が必要だったんだと信じてしまうのです。

それから、SSRIに関しては、少数例ですが、服用中にアクティベーション・シンドロームといって、急に興奮、攻撃性、易刺激性などの副作用が出現することがあります。これも注意が必要ですね。

摂食障害の治療は医療者にも大変な労力が必要なんです

―薬はあくまでも補助的な意味合いで処方なさるのですね。
ところで、この病院のように摂食障害を専門的に総合的に診てくださる施設が日本には圧倒的に少ないということをわたしは常々不思議に感じているのですが、それはどうしてなのでしょうか。

摂食障害は、治療にとても労力が必要で、治療中にトラブルが起こりやすいと思っている医療者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私たちも、ここまで来るまでにはやはりいろいろな苦労もありました。自傷行為や薬の溜め飲みなどの問題が頻繁に起こると、看護士や医者などスタッフの間でできればなるべく関わらず、敬遠しようとする方々もいらっしゃいました。でもだんだんと経験を積みながら、今の形ができあがったんですね。トラブルはそれでも少しは起こります。大きな失敗をなるべくしないように注意を払って、いろいろな経験からスタッフみんなが学びや気づきを得ながら、日々改善を積み重ねています。

大きな助けになったのは自助グループや回復者の方が力になってくださったことです。
私が当院での治療を始める前、神奈川県の帝京大学溝口病院で働いていた頃、アルコール依存症で自助グループに参加なさっておられる回復者の方がお二人、ご自分の時間とお金を割いてその病院におけるアルコール症治療プログラムの立ち上げを親身に手伝ってくださいました。それは、とても大きな助けになりましたね。だから、私は自助グループの力を信じています。

この病院で も、NABAやOAのメンバー、最近では、窃盗行為の自助グループのメンバーが、私たちの治療プログラムを援助してくれています。

自助グループは、治療プログラムを開放的にするうえでも重要です。閉鎖的な環境で個人療法を中心とした治療をしていると、危ないところでは危なくなるんですね。強制的な方法で患者さんを閉じ込めたり、薬漬けにする病院だって少なくはありません。医者や治療者と患者さんとの性的な問題が起こってくる場合もあります。

ですから、システムをオープンにすることが大切だと思っています。外部に開放する。閉鎖的な雰囲気をつくらない。治療に熱心なのは良いが、匙加減も必要ですね。あまり熱心に関わり過ぎると、患者さん方の人生を預かるような図式になってしまって、それはそれで新たな問題が起こって来ますから。

話は変わりますが、最近明るみに出てきているのは、摂食障害の方のクレプトマニア(万引き)という症状です。ブリミアでは三人に一人、回数は少ないけれど経験があるという方も含めると半数の方が万引きの経験をお持ちです。摂食障害学会という学会があるのですが、前回(2008年)の学術集会で、日本における精神科関連の学術集会では初めて摂食障害と万引き行為についてのディベートが行われました。

この病院でもクレプトマニアの自助グループをつくることを繰り返して、できてはつぶれ、できてはつぶれながら、最近やっと定着してきました。メッセンジャーという回復した方々が東京からいらっしゃってグループを導いてくれます。

万引きという行為も依存する対象なんですね。私自身は、最初は摂食障害の方の万引きをなんとかしないといけないと思ってこの問題に取り組みを始めましたが、そうすると摂食障害ではない常習的な窃盗行為を持つ方も集まってきて、試行錯誤をしながらその治療をしています。窃盗行為の自助グループが育ってきて、何とか治療ができるようになってきました。

そういう問題は根っこが同じようなものです。世代を超えて次から次へと連鎖するんですね。何世代にも渡って、アルコール、DV、摂食障害、薬物と 連鎖していく場合があったり、同じ家庭の中にいろいろな嗜癖問題があったり、一人の人が依存対象を変えていろいろと症状遍歴をしておられたり。

正体は簡単には言えません。ですが回復できる病気です

―労力が必要でトラブルも多い…それに加えてクレプトマニアのような新たな問題も浮き彫りになってきている…。そういった厳しい現状の中でも、こうして力を割いてくださる医療者の方がいらっしゃること、本当にありがたい気持ちになります。
さて、いろいろとお話をお聞きしてきましたが、まとめると、摂食障害とは何なのでしょうか。

それは、やはり簡単には言えません…。
でもやはり、病気としてみるべきものでしょうね。軽症から重症まであって、軽症だと「ちょっと変な癖」とし て一過性の場合もあるかもしれませんが、重症になると命に関わりますし、トラウマ関連疾患という見方も出てきます。重症の場合は病気としてみないと回復が 難しいものでしょうね。

―そうですよね、簡単には言えないのですよね…。質問させていただいたものの、自分の経験をかんがみても、やはりそう思います…。
では最後に、竹村先生から未来蝶.netの読者の方々にメッセージをお願いします。

摂食障害は、ちゃんと回復できる病気です。ですから、とにかく生き残るということが大切です。残念ながら亡くなってしまう方がいらっしゃるけど、亡くなっちゃったらどうにも救いようがないんです。
病気の極地になったら、自分は生きていく資格がないと思ったり未来が全く見えないと思ったり、残された道は死しかないと思っちゃうんですね。

でも、決してそんなことはありません。時間はかかるかもしれないけれど、ちゃんと回復できる病気だから、生き残ることが大切です。

摂食障害は治療しがいがある病気です。いづさんのように、こうして回復して取材に来てくださる方もいらっしゃいますし(笑)。

ここの場合、摂食障害の患者さんは、アルコールや薬物や自傷行為や自殺企図、トラウマ体験などの障害もくっついている、どちらかというと重症の方が多いです。でも、そういう方々が、ちゃんと治療していけば良くなっていくんです。生きていれば変わっていきます。摂食、アルコール、自傷、自殺未遂…当院の場合、あえて積極的に病名を付けて診断はしませんが、ボーダーラインの可能性が高いですね。そういう方々が、みなさん変わっていかれるんです。

どうか、希望を持ってください。

―竹村先生、今日はどうもありがとうございました。7、8年前に患者として座っていたこの場所に、インタビュ アーとして座れる日が来るなんて、本当にありがたい気持ちでいっぱいです。
ご苦労もたくさんおありでしょうが、苦しんでおられる多くの方のために、今後ともお元気でいてください。本当に、ありがとうございました。

 

※ 嗜癖とは

嗜癖は、英語の「アディクション(Addiction)」の訳語で「ある習慣への耽溺」を意味します。重症例は病気とされ「依存症(Dependence)」と呼ばれますが、嗜癖はもう少し軽症例から重症例までを含めた広い概念で使われます。

代表的疾患としては、アルコール依存症がありますが、このほかに薬物乱用、薬物依存症があります。乱用はおよそ依存症の前段階と考えて差し支えありません。

 

竹村道夫さんプロフィール
竹村 道夫(たけむら みちお)

昭和20年、高知県生まれ。大阪大学医学部卒業後、帝京大学医学部精神科に入局。
同55年から同大学分院の溝口病院でアルコール医療に取り組み、平成2年12月、群馬県の渋川市赤城町にアルコール症専門医療施設「赤城高原ホスピタル」を開院。
アルコール依存症や薬物依存、摂食障害の治療を行っている。