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研究レポート・学会報告
~2010年ザルツブルグ国際学会レポート(野村佳絵子さん)

友人たち

 さいごに、古くからの友人と新しくお友達になった人を紹介しよう。

 アルゼンチン人Tatiana Estefanは、子ども病院で働いているお医者さんである。今回の学会には南米からの参加者が少なかったため、Tatianaの研究発表(子どもの摂食障害について)はとても貴重なものだったように思う。しかも、いくつもの研究発表にTatianaの名前が掲載されていたため、彼女はあっち行ったり、こっち行ったりで大忙しだったようだ。そんな中、彼女も彼女で学会プログラムの中に私の名前を見つけて、”Kaeko!”“Kaeko!”と、学会場を探しまくってくれていたらしい。

 久しぶりの再会。“Tatiana!”“Kaeko!”、私たちは人目もはばからず抱き合ってしまった。さらにキス!までもいただいた。Tatianaはこういう肌と肌の接触が大好きみたい。華奢な体に満面の笑みでハグされると、ハグ文化に慣れていない私などはカチンコチンになってしまうが、きっと、Tatianaにハグされた子どもたちはキュウ~!ってなるんだろうな。やっぱり南米は体当たり勝負なんだろうな。なんて、想像したりする。  彼女との出会いには少々苦い思い出がある。初めて出会ったときに、Tatianaは妙に私のことを気に入ってくれて、私の話を熱心に聴いてくれるため、(しかもとても小柄な女性だったので)、私ははじめ「あの~、もしかして、摂食障害を抱えてたの?」みたいな質問をしてしまった・・・。先に「学会参加に名札はいらない」と書いたが、以前の私はやはり名札を気にしていたし、こういう苦い経験から「今はいらない」って勉強させられたのかもしれない。それにしても、小柄な体でものすごいエネルギー、やはり摂食障害を診るにはこういうギラギラ感が必要なのか?あるいは、診てたらギラギラ感が漂うようになったのか?とにかく南米は熱い!

 ポルトガル人Ines Ramosは、2年前からフランスでカウンセラーをしている。彼女はINTACT(ドイツのハイデルベルク大学病院心理療法研究センターによって運営されているヨーロッパ・リサーチ・トレーニング・ネットワーク、INTACT では心理的、生物学的、遺伝的、社会文化的なリスク要因についての研究、予防と早期介入、治療プロセスとその結果、そして再発予防と予後調査などを行っている)のメンバーで、INTACTでの研究成果をポスター発表していた。以前からINTACTの存在は知っていたが、その取り組みをばっちり目の当たりにできたのは感激だった。彼女と話していて面白いなと感じた点は次の3つ。

 ひとつは、INTACTという若手研究者を育てるシステムが機能しているという点。ヨーロッパならではなのか、地理的特徴を上手く利用して多国籍にまたがる研究者たちが、INTACTを中心に、それぞれの研究テーマに取り組むことができる。腹黒い私は、「若手はデータ入力や雑用に追われるのではないか?」と、いじわるな質問をしてみた。しかし、「ぜんぜん!!私は今発表しているこのプロジェクトにしか関わってないわよ!」と、Inesはあっけらかんとして答えた。

 もうひとつは、言語の問題。これも地理的な、つまりEUという政治体制があってこそだろうが、彼女はポルトガル人、そしてフランスでカウンセリングを行っている。カウンセリングといえば言語が要だ。カウンセリングはフランス語で行っているそうで、彼女はほかにも英語もドイツ語もできる。これは彼女だけではない。ポスターセッションの最中に、INTACTの友達がおしゃべりに来た。彼女はスペイン人で、今は仕事でドイツにいる。もちろん、彼女も何ヶ国語もできる。地理的な状況、また仕事とはいえ、関西弁しか知らない私はやっぱり口をあけて彼女たちの英語での会話に見惚れてしまう。そして、2人の数年ぶりの再会の様子からは、まるで東京の人と大阪の人とが久しぶりに会ったかのような、そんな印象を受けた。ヨーロッパの国境は、日本でいう県境みたいなものなのかな?ふだん考えることのない島国日本、というか井の中の蛙みたいな話が脳裏をよぎったりする。

 そして3つめは、「セルフヘルプグループって、フランスにはないわ。だって、医療機関が充実しているから」と自信たっぷりで指摘をもらった点。「へえ~、そんなふうに思うんや~」私はあっけにとられた。もちろん、フランスにもグループはあるだが、おそらく彼女はその存在を知らないのだろう。ただ、ここで彼女に講釈を垂れる必要はない。彼女の知識うんぬんという話ではなく、医療とセルフヘルプグループとの関係性、さらには両者の手の結び方、もっとそれ以前にセルフヘルプグループの意味と役割について考えることは、やはり大きな課題だという話である。「医療機関が充実していたら、セルフヘルプグループは必要ない」の?

 Inesと私がおしゃべりしている最中に、INTACTのトップが様子をうかがいにきた。Inesは、私の前では見せなかった、緊張したしぐさを示した。「ああ、なんや、やっぱり上下関係ってあるやん!」ひそかに心の中でほほ笑んだ私。トップが去ったとたん、「ああ~、早くセッション終わらないかな~、私、お腹がすいちゃったわ~」と、彼女の学会デヴューは変な日本人との会話で終わってしまったみたい・・・。

Tatiana

Ines