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研究レポート・学会報告
~2010年ザルツブルグ国際学会レポート(野村佳絵子さん)

ブレックファーストを共にして

 「朝食を食べながら、参加者同士の交流を深めてください」といった趣旨の会議への招待状を受け取った。おそるおそる会議場へ入ってみた。見知った顔が数名はあったものの、パンとバナナを手にして一人突っ立っていた私は、どこへ座ってよいものやら、肩をすくめてしまった。そんな折に、”ハロー、アゲイン!カエコ!!”と見憶えるのある声に、”ウワア~、イー!!”と思わず叫んでしまった。

 彼女はシンガポールのお医者さんEeLian LEEで、シンガポールのチーム医療を牽引しているトップの人。以前アメリカの学会で意気投合し、チームの皆さんと一緒にタイ料理を食べた仲だ。彼女のチームには、ほかにも医師がいて、看護師やソーシャルワーカーとともに参加していた(全部女性だった)。でも、こう言っては失礼かもしれないが、EeLianはどこからも医者に見えず、裸足につっかけ、スーツじゃなくってTシャツ、顔はスッピン、学会の最中も居眠りばかりで、揺れてまでいた人だ。だけど、研究内容はピカイチ!皆からの人望も熱い。やっぱり、やるときはやるんだな。こういう人ってかっこい~。しかも、シンガポールは公用語が英語というのが、国際学会では強い!特にアジア人の中では重宝される(もちろん、国内ではいろいろ大変なこともあるようだが)。

 私の憧れだったEeLianとの思わぬ再会。今回ももちろん、裸足にスッピン。そして、「2年後にシンガポールで大きなアジア国際会議をするから来てね~!」と早口で言い、モーニングコーヒーをガブガブ飲んでいた。

 そんなEeLianに力をもらったのか、パンとバナナを片手に、「ええい!旅の恥はかきすて!せっかくの機会やし、しゃべらな損!」と言い聞かせて、フィンランド人チームの輪の中に入れてもらった(無理やり入ったかな?)。そこで、フィンランドの摂食障害事情(社会的資源、治療施設、保険制度、周囲の理解、専門家ならではの悩み等々)について聞きまくった。

 今回お話できたフィンランド人チームの話を、5点にまとめよう。①フィンランドは治療施設が充実している、②福祉国家だから患者が医療費を気にする必要はない、③チーム医療体制がととのっている、④低年齢の発症は大きな問題、⑤3分の2は5年以内に、70%は30歳までに回復する、とのこと。とりわけ、「治療施設の充実」とは、これまで私が話をうかがったどの国の人からも、明確に断言されたセリフを聞くことはなかったため、今後、フィンランドの治療施設を調べてみることは有益かもしれない。それ以上に、福祉国家という事実は、長期戦を余儀なくされる摂食障害の治療においてはきっととても大切なことなんだろうな。

 福祉学については、私は門外漢なので、よくわからないのだけれども、とにかくどれほど摂食障害の研究や治療が進んでいるアメリカやイギリスであっても、「金持ちしか治療を受けられない」という大大大問題を抱えている。アメリカやイギリスには、摂食障害のトリートメントセンターが日本と比較すれば豊富(?!)にあり、毎年学会のスポンサーにもなっている。センターを紹介するためのパンフレットは、ひじょうに高級素材(上等な紙質、CDあるいはDVD付き、花の種やポプリ付きなど)が使用されており、まるでどこかの立派なホテルのパンフレットのようだ。その中には、充実した設備(緑豊かな環境で、家庭的な雰囲気が味わえる、かわいらしい部屋に家具、花柄の布団にふわふわベッドなどなど)やマニュアル化された治療プログラム(一週間の時間割みたいなもの)、やさしく微笑むスタッフたちの顔写真が掲載されている。

 そりゃ、これだけの治療を受けようと思えば、相当のお金がかかるのは当然だろう。誰が出すの?出せない(出してもらえない)人はどうするの?そもそもそんなにお金をかける必要があるの?いつも疑問に思う。たしか、以前にアメリカ人のお友達が「彼らは摂食障害をビジネスにしている」と言ってたっけ?(そう考えれば、そもそも摂食障害の国際学会をこんなに立派なホテルで開催していること自体が矛盾を感じざるを得ないし、そこに多額のお金を投資して参加している自分自身を見つめ返さざるを得ないのだけれども)。

 もちろん、「福祉国家バンザイ!」なんて言ってられない昨今の社会情勢、国際情勢はたしかにある。医療費削減のために、「早期発見・早期介入」が叫ばれている事実が日本にもある。だから、けっして「すべてを北欧に学びましょう!」とはいかないのは当然のことだが、どこかで「気持ち」や「感情」「忍耐」だけで摂食障害をなんとかしよう(できる)と幻想を抱きがちな私自身を振り返る意味でも、フィンランドの人たちとの朝食タイムは有意義だった。