トップ >> 治療に関する情報 >> 摂食障害の基本知識 ドクターに聞いてみよう!vol.6生野照子さん

摂食障害の基本知識 ~ドクターに聞いてみよう!

-(けいちゃん)生野先生は色々な方面において、ご活躍されています。特に摂食障害においてもご高名です。そのような中で「小児科医から心療内科医にご転身なさった」ということは有名なのですが、そのきっかけを教えていただけるでしょうか。

 これもやっぱり、摂食障害の患者さんがきっかけなんですよ。 小児科に行く前に、内科を回っていたんです。その時に担当したのが摂食障害の患者さんでしてね。当時まだ摂食障害ってそんなにない時で、小児科では、摂食障害の患者さんなんか、考えられないくらい。いるとしても、精神科と内科にいらっしゃるという状況でした。その頃にね、内科で、痩せて「栄養的な治療をしないと、命も危ない」という患者さんを担当したんですけれど。

 まあ私は医者になりたての新米ですし、上の担当【指導医】というんですけれどね、その先生も摂食障害の知識って、ほとんどないんですよ。病棟全体で、あんまり知識がないわけ。…で、ただ単に「栄養を入れればよい」というような治療をしていて。

 で、「あの患者さん不思議よ」っていうことになってね。「食べようともしないし、点滴も入れては抜いてしまう。なんだろう?」みたいな。そういう感じで見られてたんですね。そういう中で、私が「絶対治してあげたい!」という、新米独特の意気で(笑)、その患者さんにお会いして、とにかく色んなことを言ったわけですよ。「栄養摂られたほうが良いですよ」とか(笑)、そういうことを。でも、全然こっちも振り向いてもくださらない。それで…。今でも目の奥に焼きついているんですけど、ベッドの上に、こう…ドン!と座って窓の外をジーっと…睨んで。私は後ろから話しかけるんですけれども、まったく、なんの反応もない。そういう状況だったんですよ。でも、とにかく私は、「こちらの誠意が通じてわかってもらえたら、治療にも、振り向いてもらえるんじゃないか」と思ったのね。そう、こちらの気持ちを通じさせることがすごく大事だと思っていたわけ。だからベットサイドに座って【いつも居てる】という状態にしたわけなんですよ。それでも…、全くコミュニケーションが取れないという状況でね。他の先生に相談しても「どうしょうもない」と、みなさん思ってらっしゃるわけ。とにかく「早く食べさせて退院してもらいたい」というような気持ちだったんです、みなさんね。でも、本人は食べることを拒否して、相変わらず外を見ている…。そして、その結果、患者さんは精神科へ転科されて行ったんです。それが私にはものすごく衝撃的だったんですね。なぜなら…六年間で医者になって「治せるわ」みたいな思いで(笑)、医者として希望を持ってスタートしたのに、「何これ?!」って思って。「私が今まで勉強してきたことって、何だったの?!こんなこと、習ってないわよ」みたいな感じで。【その病気がどうのこうの】以前の問題なんですよね【その患者さんとコミュニケーションをどう取れば良いか】なんてね。【患者さんの気持ちをどう理解すれば良いか】なんて、教えてもらってないんですよ。…で、「私が習ってきた医学ってのは、この病気に端から負けてるわ!」と思って。当時の私は、その患者さんと年齢も近い女性じゃないですか。私はそれまでの人生で「誠意さえ持てば、わかってもらえる」と思ってたんだけど、そういう方法も通じないという状態でね。【じゃあ、どういうふうに医者としてあるべきか】というのを、やっぱりすっごく…悩んだんですよね。…で、…なんて言うかな。「『自分の誠意を先に通じさせる』っていうこと自体が間違っているのだ」ってことに気付くのは、ずっと後になってからなの。まず、相手の気持ちを理解しないとねぇ。「私をわかってもらおう」ということは、一生懸命やるには一見、良いように見えるんだけどもね、そうじゃないということが段々わかってきたのね。それと、何ていうのかな、あの時私にはね「氷の岩」みたいに見えたわけ、その患者さんの後姿が。彼女は微動だにもしないから。でも、じつは決して「氷の岩」じゃなくって、彼女の心の中には…火山の溶岩みたいに、【燃える思い】っていう…のがある。【煮え立つ思い】っていうのがある。だから、それを閉ざさないとやっていけない。それをフッと出してしまったら、バーンて爆発してしまうくらいの思いっていうのがある…ってわかったのも、ずーっと後なんです。その時はわからなかったのね。だから、それがわかってからは、たとえば学会で「摂食障害ってのは、アレキシサイミア(失感情症)だ」って言われると、私は「絶対に、そうじゃない」って言うようになった。その頃、アレキシサイミアが摂食障害の心理機制だと言われたんだけれど、それは絶対に違うと。「失感情症的にならないとバランスが取れないくらい、心の中には、思いが煮えたぎっているんです。みなさん勘違いしないで」って、何回も言わねばならなかった。

-(saahko)ああ、涙が出てきました(涙をぬぐう)。本当に当時は、そのような思いで、無気力無感動になっていたので…。今は、「嬉しい」「楽しい」って出せるんですけど。

 そういうので栓をしないとね、内の思いが爆発したら、とても自分でコントロールできないし「人にもたぶん火傷を負わせるだろう」ってことを本人が一番わかっているの。だから、抑えたくなくても抑えざるを得ないんですよ。そこを理解しないと、摂食障害を理解することはできませんっ…て、学会で「はい!」って手を挙げて(笑)言わせてもらった。

 というのは、「私には、わからなかった」っていう最初の痛い経験があるからなのね。…で、ひどい医者になったら、「摂食障害って、理性ばっかり大きくって、感情はほとんどない」って言うの。私、また「はいっ!」って手を挙げて(笑)、「先生、摂食障害をわかっておられません。そんな摂食障害の患者さんなんか、誰もいない。どれだけ大きな感情を心に秘めているか!」って…あの…言わせていただいたんだけど、当時多くの専門家がそんな見方だったんですよ。栄養障害の症状と、もともとの性格を混同しているのね。でも私だって、そんなふうに言えたのも、【身体だけをみるのが医者ではない】と痛感した最初の経験があったからだったんです。

 …で話は戻りますが、私は小児科へ入ったんですけれども、子供を診る時に、その初期体験が自分の思いの中に強くあったから「子供の心も一緒に診る医者になりたい」と思って、心療内科に方向転換するようになりました。自分がやりたいのは精神の病とかじゃないので、精神科とはちょっと違ったんです。そうじゃなくって、「ご家族も含めて心の問題を一緒に考えていかないと、身体の病気も本当に治したことにならないんじゃないかな」って思って。だから、精神科とはちょっと違って、ストレス症状で学校行けないケースなど、小児心身症を診はじめたのです。ですから、摂食障害をこの歳までやってきたのも、医者になりたての頃からのご縁なの(笑)。

-(saahko)すごいご縁ですね。その時の最初の出来事が、先生の中では今に繋がる原動力でおられるんですね?

 そう、原動力です。だから医者人生として、やはり大半は摂食障害を考えてきたってことですね。大したことは出来ないけどね。出来ないけれども、長さはそうです。

-(一同)え~!そんなことはないです。