トップ >> 治療に関する情報 >> 摂食障害の基本知識 心理士さんに聞いてみよう!vol.1中村このゆさん

摂食障害の基本知識 ~心理士さんに聞いてみよう!

自尊感情も、一枚のカードがちょっと裏返るだけで変わります

-先生は、追手門学院心理学の教授という顔もお持ちです。心理学教授の1人としてお伺いいたします。学校の授業で摂食障害は、どのように紹介され、どのように学生に理解されているのでしょうか。

 えーっとですね。授業の中で、メンタルヘルス論という授業を持っているんですけれど、その中で青年期の問題として、一コマを当てて摂食障害の話をしています。それは、学生さんには「私が摂食障害の専門なので」ってお断りして、摂食障害にはこういう風な要因があるんだとか、こういうふうに起こってきてるってことを説明しています。…で、その時は受講生の中で必ず何人か摂食障害の人がいるという前提でお話しています。「きっとこの中にも、(摂食障害の方が)いるはずだ。その方も黙って聞いててね」っていう感じで。…で、男性にも言います。「あなたのガールフレンドも摂食障害かもしれない。」「男性もいますよ」っていう話もします。私は必ず、「そんな病気があるんや」っていうんじゃなくって、「自分と関りのある」「関るかもしれない」っていう形で、ご紹介するようにしています。

-生徒さんの反応とかは、どんな感じですか

 うん。授業が終わると、よくやってくる質問は、「僕の友達、私の友達で摂食障害の人がいるんだけれど、どこに行ってもらったら良いですか」…という質問をしに来られますね。…で、そのときはですね、私は「どこどこ(場所の説明)」という言い方はしません。なぜかというとですね、一人ひとり、やっぱりバックグラウンドが非常に違うんで、「詳しくお話を聞かないとお教えできないわ」と言ってます。…で、研究室に来てもらってお話させてもらうと、「じつは私がそうなんです」と…。(やっぱり)いてはります。…で、じっくりお話をきいて、その人の状態とかを見立てをして、「あなたには、こういうのが良いんじゃないの」というふうな感じで、色々、サッジェスションさせてもらうっていうことになりますかね。

-なるほど。学生さんにもおられるのですね。では、摂食障害の学生さんにもお伝えしていると思いますが、先生が摂食障害の方にお話する回復へのヒントなどがありましたら、教えていただけるでしょうか。

 人間ってデリケートな動物でね、さっき言ったような社会・文化・家庭の中にあっても、全員の女性が摂食障害にはならないですよね。だから私は、よく例え話で言うんだけれども、「摂食障害は複合要因である」。そうですよね。だから、何かが足し算されていって、あるとこまで行ったら、ピキッと発症するわけです。だから、反対に言えば、さっきの足し算の何かが減れば、少なくとも症状は抑えられる。そして、自己肯定感や自尊感情も、何らかの要因の一枚のカードがちょっと裏返るだけで、変わる…っていうことですよね。それは、たとえば、パートナーが出来ることかもしれないし、子どもが生まれることかもしれないし、カウンセリングを長いこと受けて、カウンセラーとの関係で自分を回復していくことかもしれないし、そこに、自助グループでみんなと語り合うことかもしれないし、色々なやりかたがあると思います。

-やりかたにも、色んなカードがあるということでしょうか。

 そう、入院でも良いのね。そうして自分で入院することによって、行動療法で「ちゃんと食べられたやん」と、自信を持つ。山に登る道はいっぱいあるって感じ。一枚カードが裏返るだけで、全然、世の中が違って見えるんですよ。

-あと、カードをいかに減らしていくかですね。

 そうです。それか、カードはそのままで、それ以外の部分をどれだけ増やすかです。例えばね、摂食障害の一番ひどい時っていうのは、頭の中は食べ物ばっかりでしょ。人と話しをしてても、お昼どうしょうか…とか、この人に食事を誘われたらどうやって断ろうか…とかね。…で、それを叩き壊して減らそうと思う必要はないわけで、まあ、カウンセリングを受けたりなんかしながら、ちょっとづつ他の部分を増やすわけです。そうすると、その人の心の中で、食べ物について関っているものっていうのは、相対的にウエイトが低くなる。だから、私はクライアントさんによく言うのは、「今ある症状をなんとかしようと思うな。それは、あるもんや」と。「だけど、他のことがちょっとでも増えていけば、それは段々小さくなっていく」

-他の事に集中できるものがあれば、ちょっとづつそれに集中していって、それが楽しくなると、段々、食がどうでも良くなっていくということですね。

 そう、背後に追いやられる。
ただね、そのプロセスは「ほんだら、自分一人でやれよ」っていうのは(笑)それは絶対無理なのですよ。そのために私らがいるわけで。おかげさんで(笑)。
そのプロセスは、さっき言ったように色んなカードがある。

-おっしゃってることがよくわかります。自分の経験とすごく重なります。

 よかったわ(笑)。

-最後に、先生から読者にアドバイスやメッセージがあれば、お願いいたします。

 難しいなあ。…(しばらく時間を空けて)一番はですね、やはり身体の症状が甚だしい(はなはだしい)人は「生きながらえて下さい」ということですね。生きながらえてくれなかったら、カウンセリングも自助グループもないですからね。とにかく、命を大事にしてほしい。もしも、貴女が30㎏も体重がないようなら、お医者さんに行って下さい…っていうことですね。それは是非、お願いしたい。
 それから、やっぱり身体の色んな所に症状が出ると思うんですよね。食べられないとか、月経がないとか、それから、ほんとに低カリウム症で命が危ないとかね。それから、1日に6時間も8時間も食べ吐きしてるとかね。行動・身体にすっごい症状が出てる時は、いくら「心の問題や」って言ってもですね、もう脳が完全に萎縮してますので、どないもこないもしゃーないですわ。だからその時は、とにかくお医者さんの所に行って、ある程度カウンセリングを受けれるようになったり自助グループに行けるようになったりね、ちょっとエネルギーを回復するまでは、まず、体の症状をある程度取ることに専念していただきたいですね。

 アメリカで1950…何年が忘れちゃいましたけど、生理心理学上有名な飢餓実験というのがありまして、健康な成年男子を何名か集めてきてですね、すごい低カロリーのご飯を毎日、食べさせたんですね。そしたら、摂食障害の人と全く同じ症状になるんですよ。一日中、食べ物のことばっかり考えて。そうなんです。だから、まず低栄養と栄養失調状態で起こっている精神症状を取らないといけない。それにはやっぱり身体を回復させて脳をある程度回復させて栄養を与えてください。

 そこから後は、「非常に、食に対するこだわりが強い人」「色々行動化する人」によって道は違いますので、どんな専門家に会われるか、どんな方法を取るかは知らないけど、自尊感情を高めるために、一歩一歩、歩いてください。自分の出来ることから、何か一つでもいいから、一歩踏み出してみてください。それは本当に、人によって違うのでね。例えば、誰かに「自分は摂食障害なんだよ」って打ち明けることかもしれないし、1日6時間、食べ吐きしてるのを5時間30分に減らすことかもしれないし、学校に行けてない人だったら学校のプリントをちょっと見てみるとか。だから、人様々です。「貴女が出来そうなことを何か一つ始めてみませんか」っていうことですかね。

-「難しく考えずに、自分に出来ることから始める」と考えると、気を楽にして一歩前に進めそうですね。 先生、本日は本当にありがとうございました。